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MALDI-TOF/TOF-MSとは?基礎や原理・用途などを解説

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MALDI-TOF/TOF-MSは、質量分析法の1つで、特に生体高分子の分析に広く利用されています。この技術は、微生物の同定や病気の迅速診断、さらにはタンパク質の構造解析など、医療や生物学、化学分野において欠かせない存在です。

MALDI-TOF/TOF-MSは、試料をマトリックスと混合し、レーザー光でイオン化するMALDI法と、飛行時間質量分析計(TOF)を組み合わせた装置です。

当記事では、MALDI-TOF/TOF-MSの基礎知識、原理と仕組み、さらに各分野での具体的な応用例について詳しく解説します。

目次

1. MALDI-TOF/TOF-MSの基礎知識
1-1. MALDI-TOF/TOF-MSとは?
1-2. ほかの質量分析法との違い
1-3. MALDI-TOF/TOF-MSの歴史

2. MALDI-TOF/TOF-MSの原理と仕組み
2-1. MALDIの基本原理
2-2. TOFの基本原理
2-3. TOF-SIMSの基本原理

3. MALDI-TOF/TOF-MSの主な用途と応用
3-1. 医学分野での応用
3-2. 生物学分野での応用
3-3. 化学分野での応用

まとめ

1. MALDI-TOF/TOF-MSの基礎知識

カビ・バクテリアといった微生物の同定は、医療や食品などのあらゆる分野で欠かせません。微生物を同定する技術の1つとして注目されているMALDI-TOF/TOF-MSの概要を紹介します。

1-1. MALDI-TOF/TOF-MSとは?

MALDI-TOF/TOF-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間/飛行時間質量分析)は、質量分析の1種として知られています。特に生体高分子の分析に広く利用されており、分子量が数十万にのぼるタンパク質のような高分子も測定可能です。

MALDI-TOF/TOF-MSでは、試料はマトリックスと混合され、レーザー光でイオン化されます。飛行時間(TOF)質量分析計でイオンの質量を測定します。

TOF/TOFは、一次イオンと二次イオンの質量を連続して測定することで、より詳細な構造情報を得られるのが特徴です。

1-2. ほかの質量分析法との違い

MALDI-TOF/TOF-MSは、ほかの質量分析法と比較して、非破壊的で迅速な分析が実現できます。従来の分離培養や同定検査では3日以上の時間が必要でした。しかし、MALDI-TOF/TOF-MSは分離培養を経て、最短5分以内で菌名を特定可能です。

特に、タンパク質やペプチドなどの生体高分子の分析に優れており、低分子から高分子までの幅広い質量範囲をカバーできます。さらに、MALDI-TOF/TOF-MSはイオン化がソフトであるため、試料の化学構造を保持したまま分析できるのが大きな特徴です。

(出典:J-STAGE「島津製作所 質量分析装置の歴史」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/massspec/65/1/65_S16-53/_pdf

1-3. MALDI-TOF/TOF-MSの歴史

MALDI-TOF/TOF-MS1980年代後半に開発され、急速に発展します。初期の研究では、質量分析の感度と分析能を向上させることに焦点を当てていました。

1990年代初頭には現在の基礎となる質量分析装置を使って、分子をイオン化させる方法が数多く報告されるようになります。ただし、当時報告されていた方法は「ハードイオン化法」と呼ばれるもので、分子をバラバラの断片にしてしまうため正確な分子量が測定できませんでした。

1980年代後半には、ソフトイオン化法が登場し、タンパク質を破壊しないイオン化に成功します。1990年代にはMALDI-TOF/TOF-MSの技術が商業化され、広範な分野で利用されるようになりました。

MALDI-TOF/TOF-MSを用いた集落同定法は、国内の多くの臨床検査室に導入されており、微生物学的検査に貢献する存在として期待されています。

(出典:J-STAGE「MALDI-TOF-MS」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/34/4/34_4_255/_pdf/-char/ja

2. MALDI-TOF/TOF-MSの原理と仕組み

MALDI-TOF/TOF-MSは、MALDIとTOF/TOF-MSを組み合わせたタイプの質量分析装置です。MALDI・TOFの基本原理、TOF-MSの二重質量分析(TOF/TOF)について解説するため、MALDI-TOF/TOF-MSの理解を深める際に役立ててください。

2-1. MALDIの基本原理

MALDIは、試料をマトリックスと混合し、レーザー光を照射してイオン化を行います。マトリックスとは、試料分子を保護しながらイオン化を助ける役割を持つ、イオン化支援剤のことです。実際の分析におけるマトリックスとしては、主に有機酸が使用されます。

マトリックスには、レーザー光を吸収して熱エネルギーに変換する性質があります。レーザー光によりマトリックスの一部が急速に加熱されて蒸発することで、試料分子がイオン化されるメカニズムです。

(出典:J-STAGE「質量分析:MALDI-TOF-MS による材料評価」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/50/5/50_5_448/_pdf

(出典:一般社団法人 日本臨床微生物学会「MALDI-TOF MS を用いた臨床微生物学的検査の新しい潮流原理から応用まで」/https://www.jscm.org/journal/full/02602/026020079.pdf

2-2. TOFの基本原理

TOF(飛行時間)質量分析計は、イオン化された分子を電場で加速し、質量に基づいて分離します。イオンを真空状態で一定距離飛行させると、飛行時間はイオン質量の平方根に比例します。

両者の比例関係に基づき、軽いイオンのほうが重いイオンよりも早く検出器に到達する仕組みを利用するのが、TOF質量分析計の基本原理です。実際にイオンの飛行時間を測定することで、分子の質量を特定できます。また、飛行距離が大きいほど、質量分解能が高いことも分かります。

TOFは、高感度で広い質量範囲をカバーする点が特徴です。多様なサンプルに対して、信頼性が高い詳細な分析が実現できます。

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2-3. TOF-SIMSの基本原理

TOF-SIMSとは、試料表面の構造解析を行うための手法を指します。ほかの分析装置と比較すると、試料表面を詳細に分析できるのが特徴です。具体的には、試料最表面の有機汚染の同定などに用いられます。

TOF-SIMSは、SIMSの中でもイオン検出に飛行時間型質量分析計(TOF-MS)を使います。一次イオンビームをパルス的に照射することで、イオン破壊を防ぎながら、高感度に材料表面状態を計測できる手法です。

SIMSでは、放出された二次イオンを質量分析計で検出し、質量スペクトル・二次イオン像などから試料表面についての情報を取得します。

(出典:J-STAGE「飛行時間型二次イオン質量分析法の生命科学への応用」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj/50/4/50_4_252/_pdf

3. MALDI-TOF/TOF-MSの主な用途と応用

高感度かつ高精度な分析が迅速に実現できるMALDI-TOF/TOF-MSは、幅広い分野で欠かせない存在です。MALDI-TOF/TOF-MSの主な用途と応用について、医学や生物学、化学といった分野ごとに紹介します。

3-1. 医学分野での応用

精密な質量数情報が求められる、医学分野において、MALDI-TOF/TOF-MSの技術は欠かせません。具体的には、医学分野で病気の迅速な診断やバイオマーカーの発見に利用されています。さらに、微生物の同定や薬物代謝物の解析などに役立つのも特徴です。

最近では、卓上に設置可能なサイズ、かつ自動化された前処理装置・データ解析ソフトと連動できるMALDI-TOF/TOF-MS装置が普及するようになりました。以前より導入ハードルが下がった影響もあり、臨床現場でも、迅速で正確な分析ができるMALDI-TOF/TOF-MSの応用が進んでいます。

(出典:J-STAGE「質量分析:MALDI-TOF-MS による材料評価」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/50/5/50_5_448/_pdf

(出典:J-STAGE「MALDI-TOF-MS」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/34/4/34_4_255/_pdf/-char/ja

3-2. 生物学分野での応用

MALDI-TOF/TOF-MSは、生物学分野におけるタンパク質の同定やポスト翻訳修飾の解析にも必須です。最適なイオン光学系と高いレーザー技術によって、生物学分野に関連するタンパク質の解析に貢献します。

具体的な例として、プロテオミクス研究が挙げられます。MALDI-TOF/TOF-MSを活用すると、微生物の菌体を直接測定でき、微生物由来のタンパク質のスペクトルが獲得可能です。タンパク質の質量スペクトルを解析することで、細胞内タンパク質の機能と相互作用の解明をサポートする役割を担います。

(出典:J-STAGE「質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いた臨床微生物同定と感染症迅速診断への応用」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/myco/63/2/63_209/_pdf/-char/ja

3-3. 化学分野での応用

化学分野では、新しい化合物の構造解析や合成化学における中間体の特定にMALDI-TOF/TOF-MSが活用されています。特に、高分子化合物や有機化合物の分析において、高い感度と精度を有するのが特徴です。

高分子化合物の分子量測定方法としては、GPC法(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)も普及していますが、標準試料の種類が少ないため、分析試料の正確な分子量測定に課題があります。

ソフトイオン化によって、従来よりも分子量を容易に測定できるMALDI-TOF/TOF-MSは、化学分野でも新たな知見を得るための技術として期待されています。

まとめ

MALDI-TOF/TOF-MSは、その高い感度と精度から、微生物同定や病気の診断、タンパク質の構造解析に至るまで、広範な分野で利用されています。特に、試料の化学構造を保持したままイオン化できる点が大きな特徴です。

この技術の進化により、迅速かつ正確な分析が可能になり、研究や医療の現場での導入が進んでいます。MALDI-TOF/TOF-MSを活用することで、今後も多くの新しい発見や技術革新が期待されます。

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