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超遠心分離機(超遠心機)とは?原理や用途・種類を分かりやすく解説

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超遠心分離機(超遠心機)は、非常に高い回転数で試料を遠心し、微小な粒子や分子を効率的に分離するための装置です。用途は多岐にわたり、生命科学の研究においてはウイルスや細胞小器官、DNAやタンパク質といった生体分子の分離に広く使用されています。また、製薬業界やナノテクノロジー分野でも不可欠な装置として、試料の精製や品質管理などに貢献しています。

当記事では、超遠心分離機の種類や用途などについて分かりやすく解説するので、ぜひ参考にしてください。

目次

1. 超遠心分離機(超遠心機)とは
1-1. 遠心分離機(遠心機)の原理・仕組み
1-2. 超遠心分離機の歴史

2. 超遠心分離機の種類と用途
2-1. 分離用超遠心分離機(分離用遠心機)
2-2. 分析用超遠心分離機(分析用超遠心機)

3. 超遠心分離機(超遠心機)のローター
3-1. 固定角ローター
3-2. スイングローター
3-3. ゾーナルローター

4. 超遠心分離機を製造している主なメーカー

まとめ

1. 超遠心分離機(超遠心機)とは

超遠心分離機(超遠心機)は、非常に高い回転速度を利用して、液体中の微粒子や高分子物質を分離する装置です。通常、約20,000回転/分(rpm)以上の速度で回転し、最大で500,000×gに達する強力な遠心力を生成します。この遠心力により、ウイルスや酵素などの微粒子を効率的に沈降させ、分離精製することができます。

遠心効果Zは、遠心力の大きさを示す無次元数であり、以下の式で表されます。

Z=ω^2*r/g

ここで、ωは回転の角速度、rは回転半径、gは重力加速度です。この式から分かるように、遠心力は回転速度と回転半径に依存し、これらを調整することで分離効率を制御できます。

超遠心機は、タンパク質の精製、ウイルスの抽出、オルガネラの分画など、多くの生物学的研究や産業応用において欠かせない装置の1つです。

1-1. 遠心分離機(遠心機)の原理・仕組み

超遠心分離機と通常の遠心分離機の主な違いは、回転速度と遠心力の大きさにあります。通常の遠心分離機は約20,000回転/分(rpm)までの回転速度で動作し、比較的低い遠心力を発生させます。一方、超遠心分離機はそれを大きく上回る速度で回転し、100,000×g以上の非常に強力な遠心力を生み出すことが特徴です。また、超遠心分離機は生物学や化学の精密な分析に必要な高度な分離を行うために使われるのに対し、通常の遠心分離機は主に細胞や大きな粒子の分離など、比較的簡易な操作に利用されます。

そもそも遠心分離機は、遠心力を利用して、混合物中の成分を分離する機器です。回転運動をする物体には、回転の中心から外側に向かって働く力(遠心力)が生じます。また、混合物中の成分は、それぞれの比重(密度)が異なります。遠心力を加えることで、比重の大きな成分は回転の中心から遠ざかり、比重の小さな成分は中心に集まるように分離されるという仕組みです。

(内部リンク:「遠心分離機とは」

1-2. 超遠心分離機の歴史

超遠心分離機の歴史は、1920年代にスウェーデンの化学者テオドール・スベドベリがウプサラ大学で行った研究から始まります。スベドベリは、コロイド化学における研究を進める中で、化学と遠心分離の組み合わせに興味を持ち、1923年に同僚の協力を得て最初の分析用超遠心機を開発しました。この機器は42,000rpmの回転速度を達成し、微粒子の沈降を観察するための光学装置も備えていました。スベドベリの研究により、タンパク質の分子量や構造に関する新たな知見が得られ、タンパク質が高分子であることが証明されました。

スベドベリの超遠心機は、タンパク質の純度や分子量を測定するための革新的な技術として生化学の発展に大きく貢献しました。1926年には、コロイド分散系の解析に関する業績でノーベル化学賞を受賞しましたが、この受賞は超遠心機の開発によるものではなく、コロイド化学の分野における貢献によるものでした。その後もスベドベリの技術は進化を続け、1940年代には商業的な超遠心分離機が登場し、分子生物学の重要なツールとなっていきました。

2. 超遠心分離機の種類と用途

超遠心機は、分析用と分離用の2つに分類されます。分析用では、沈降速度を測定して微粒子の大きさや高分子の分子量分布を評価します。分離用では、分離精製または濃縮を行い、目的の物質を純化します。

2-1. 分離用超遠心分離機(分離用遠心機)

分離用超遠心分離機は、数万rpmの高速回転によって数十万gの遠心力を生み出し、物質を効率的に分離する装置です。ローターを高速度で回転させるため、ローター室内は高真空に保たれており、ミクロソームやリポタンパク質などの微細な粒子の分離に適しています。

2-2. 分析用超遠心分離機(分析用超遠心機)

分析用超遠心分離機は、遠心力を利用して溶液中の分子を沈降させ、その様子をリアルタイムで観察・解析する装置です。

タンパク質やナノ粒子などの物質の分子量、形状、多分散性、相互作用などを高精度で測定するため、特に生物学や化学、医薬品の研究で広く用いられています。遠心中の分子の沈降状況を光学システムで捉え、分子の動きを経時的に記録することで、物質の挙動を詳細に解析することが可能です。

分析用超遠心分離機には紫外可視吸光測定計やレイリー干渉計といった光学系が内蔵されており、これにより、タンパク質の沈殿や相互作用を精密に検出できます。また、沈降速度法や沈降平衡法などの解析手法を用いて、分子の性質を包括的に解析でき、従来の技術では難しかった非破壊かつ高精度な分析が可能となっています。

3. 超遠心分離機(超遠心機)のローター

超遠心分離機において、ローターは心臓部とも呼べる重要な部品です。ローターは、試料を入れた容器(セル)を保持し、高速回転させる部分です。遠心力が発生する中心となるため、試料の分離に直接影響します。

超遠心分離機のローターには、主に以下のような種類があります。

3-1. 固定角ローター

固定角ローターは、遠心中にチューブを一定の角度で保持し、サンプルを効率的に分離できるローターです。通常、チューブは垂直から23°~38°の角度で配置され、粒子が遠心力によってチューブの側面に当たりながら底に移動することで、効率的にペレットを形成します。細菌や酵母のペレッティング、微粒子の除去、DNAの分離などのアプリケーションに適しています。

固定角ローターの大きな特徴は、短い沈降経路で素早く分離できることです。スイングローターに比べて回転数を高く設定できるため、強い遠心力を生かして短時間で処理が完了し、分解能も優れています。また、ペレットがチューブの側面に形成されるので、ペレットの回収が容易で、サンプルの回収や廃棄にも便利です。そのため、固定角ローターは、特に高効率かつ短時間でのペレッティングに向いています。

3-2. スイングローター

スイングローターは、回転中にチューブが水平になる構造が特徴で、沈殿物がチューブの底に均一に蓄積されます。そのため、上澄みの除去が容易であり、大容量のサンプルを処理する際に適しています。特に密度勾配遠心法で利用されることが多く、沈殿物のバンドが乱れにくく、正確な分離が可能です。

スイングローターは固定角ローターと比較すると、回転速度が低めで、沈降経路が長いため、時間をかけてしっかりと分離する用途に向いています。また、粒子がチューブの側面にぶつかることなく、遠心力に従って垂直に沈降するため、分離精度が高くなる点も特徴です。特に、ウイルスや微細粒子の分離に向いています。さらに、減速中も重力が常に底の方向に働くため、ペレットの舞い上がりを防ぎ、サンプルを安定して保持できる利点もあります。

3-3. ゾーナルローター

ゾーナルローターは、密度勾配遠心法に使用されるローターで、大量のサンプルを効率的に分離することが可能です。スイングローターで行う通常の密度勾配遠心法をスケールアップしたもので、特に大容量のサンプルを一度に処理したい場合に適しています。

スイングローターではチューブ内にサンプルと密度勾配溶液を入れますが、ゾーナルローターではチューブを使用せず、ローター本体に直接これらの液体を注ぎます。

4. 超遠心分離機を製造している主なメーカー

超遠心分離機を製造する主なメーカーとして、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズとベックマン・コールターが挙げられます。

エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズは、日立工機の遠心機ブランド「himac」がドイツのエッペンドルフ社に譲渡される形で誕生した企業です。同社は研究から生産まで幅広い用途に対応する製品を提供しており、高速回転技術やチタン加工技術を生かして精度の高い分離を可能にしています。

一方、ベックマン・コールターは、1997年にコールター社を買収して設立された企業で、世界中の研究機関や製造業で採用される信頼性の高い製品を提供しています。

まとめ

超遠心分離機は、高速回転を利用して微細な粒子や分子を高精度で分離するための装置です。超遠心分離機は、試料の特性や目的に応じて、異なるローター(スイングローター、固定角ローター、ゾーナルローター)を使用することで、最適な分離を実現できます。

スイングローターは、試料容器を水平に回転させることで、均一な沈殿を形成しやすく、上清の取り出しが容易です。一方、固定角ローターは、遠心力の方向が一定で、沈殿物を効率的に回収するのに適しています。

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