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真空計とは?主要な真空系の種類と原理・選び方を分かりやすく解説

製造業・研究業界において、圧力測定にはあらゆる計測器が利用されています。一般的な圧力計は大気圧よりも高いゲージ圧(正圧)を測定することに特化していますが、大気圧よりも低いゲージ圧(負圧)を正確に測定するためには、専用の装置である「真空計」が必要です。
真空計とひとくちに言っても、その種類や原理は多岐にわたります。そこで今回は、真空計の概要から主要な種類とそれぞれの原理、さらに適切な真空計の選び方まで詳しく説明します。真空機器の導入を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次 1. 真空計とは 2. 主要な真空計の種類と原理 2-1. ピラニ真空計 2-2. 隔膜真空計 2-3. 冷陰極型電離真空計 2-4. 熱陰極型電離真空計 2-5. 四極子形分圧真空計 2-6. 磁場偏向型分圧真空計 3. 真空計には校正が必要 4. 真空計の選び方 まとめ |
1. 真空計とは
真空計とは、大気圧よりも低いゲージ圧(負圧)を測定する機器のことです。
一般的な圧力計は、大気圧よりも高い0MPa以上の正圧のみを測定します。しかし、真空計は真空ポンプによってつくられる気圧の下がった空間と大気圧を比較し、圧力の差を数値化することで、0MPa以下の負圧を測定できるようになっています。
そもそも「真空」と聞いて、空気がまったくない状態をイメージする方も多いでしょう。しかし、工業的には「負圧の状態となった気体で満たされた空間(負圧環境)」を指しており、圧力範囲に応じて「低真空」「中真空」「高真空」「超高真空」の4つに分類されます。
真空計とひとくちに言ってもさまざまな種類があり、測定できる真空度や測定方式もそれぞれ異なります。したがって、目的に応じて適切な真空計を選定することが大切です。
2. 主要な真空計の種類と原理
真空計には、大きく分けて「全圧真空計」と「分圧真空計」の2つがあります。一般的に、全圧真空計は真空計と総称されることが多い一方で、分圧真空計は質量分析計と呼ばれることもあります。それぞれの概要と具体的な種類は下記の通りです。
全圧真空計 | 真空内に含まれる分子や原子を対象に、圧力を測定する方法です。測定範囲が広く、低真空から超高真空まで対応できます。 |
・ピラニ真空計(熱伝導真空計) ・隔膜真空計(弾性真空計) ・ブルドン管真空計(弾性真空計) ・マクラウド真空計(圧縮真空計) ・冷陰極電離真空計(電離真空計) ・熱陰極電離真空計(電離真空計) | |
分圧真空計 | 真空内に含まれる気体とその組成を対象に、特定の成分ごとの分圧を測定する方法です。質量分析技術を利用し、真空中の異なる成分を識別することで、それぞれの割合や濃度を測定できます。 |
・四極子形分圧真空計(質量分析計) ・磁場偏向型分圧真空計(質量分析計) |
ここからは、代表的な真空計の種類と動作原理について詳しく紹介します。
2-1. ピラニ真空計
ピラニ真空計とは、気体の熱伝導を利用して圧力を測定する真空計です。熱伝導真空計の一種であり、全圧真空計に分類されます。
主に0.4Pa~2,000Pa程度の低~中真空領域の圧力測定に用いられ、ほかの種類に比べて安価で入手できることから、産業用途をはじめ、さまざまな分野で広く使用されています。
ピラニ真空計は、コントローラーと測定子で構成されたシンプルな構造をもちます。測定子の内部には「フィラメント」と呼ばれる白金細線が張られており、このフィラメントの温度変化を利用して圧力を測定します。
1.コントローラーからフィラメントに電力を供給し、加熱する 2.加熱したフィラメントに気体分子が衝突すると、熱が奪われ冷却される 3.冷却度合い(温度変化)を電気抵抗の変化として検出し、圧力に換算する |
基本的に、圧力が高いほど気体分子の衝突は多くなるため、冷却効果も大きくなります。反対に、圧力が低いと冷却効果は小さくなります。
2-2. 隔膜真空計
隔膜真空計とは、ダイアフラム(隔膜)の両側に圧力差を加えた時に生じる弾性変形の変位から圧力を測定する真空計です。全圧真空計に分類され、「ダイアフラム真空計」とも呼ばれています。
測定できる圧力範囲は主に105Pa(100,000Pa)~10-2Pa(0.01Pa)の中~高真空領域と広く、非常に高い測定精度を誇る点が特徴です。
隔膜式真空計の測定子内部には薄い隔膜が設置されています。一方は一定の圧力(標準圧力)に固定された電極がある「基準室」に、そしてもう一方は「測定室」につながっています。
基準室と測定室に圧力差があった場合、その圧力差によってダイアフラムがたわみます。このたわみ量から、測定室内の圧力値を測定することが可能です。
2-3. 冷陰極型電離真空計
冷陰極型電離真空計とは、真空中の気体分子を電離させ、その電流の変化を測定することで圧力を測定する真空計です。全圧真空計に分類される電離真空計の一種であり、「逆マグネトロン型真空計」や「コールドカソードゲージ」とも呼ばれています。代表的な冷陰極型電離真空計としては、ペニング真空計や冷陰極マグネトロン真空計が挙げられます。
測定できる圧力範囲は主に1.0×10-4Pa(0.0001Pa)~1Paの中~高真空領域と広く、低圧の測定に優れていることも特徴です。
冷陰極型電離真空計の測定子内部には陰極・陽極が設置されており、陰極の周囲には磁石が配置されています。冷陰極に高電圧をかけると、陰極から放出された電子が真空中の気体分子と衝突し、気体分子はマイナスの性質をもつ電子とイオンに分かれます。
このとき発生したイオンの数は真空中の圧力に比例するため、電流値の変化から圧力を算出できます。圧力が高ければイオンの数が多くなり、電流値も増加します。
2-4. 熱陰極型電離真空計
熱陰極型電離真空計とは、熱陰極を用いて気体分子を電離させ、生じたイオンの数を計測することで圧力を測定する真空計です。冷陰極型電離真空計と同様、全圧真空計に分類される電離真空計の一種であり、「ホットカソードゲージ」とも呼ばれています。代表的な熱陰極型電離真空計としては、三極管形電離真空計やB-A真空計、さらにエキストラクタ真空計が挙げられます。
測定できる圧力範囲は主に1.0×10-1Pa(0.1Pa)~1.0×10-5Pa(0.00001Pa)の高真空領域で、特に低圧の測定に優れていることが特徴です。
熱陰極型真空計の測定子内部にあるフィラメントを加熱することで、フィラメントから熱電子が放出されます。放出された熱電子が真空中の気体分子に衝突すると、空気はイオン化を引き起こし、プラスの性質をもったイオンに変化します。このイオンの数に比例する電流値から、圧力を測定することが可能です。
2-5. 四極子形分圧真空計
四極子形分圧真空計とは、質量分析の原理を応用して真空中のガス成分を特定し、成分ごとの圧力を測定する真空計です。分圧真空計に分類され、「残留ガス分析計」とも呼ばれます。測定できる圧力範囲は主に0.01Pa以下の超高真空領域で、非常に低い圧力での測定が可能です。
四極子形分圧真空計は、イオン源・四重極・検出部で構成されています。測定対象となるガスは、まずイオン源内で熱電子が気体分子に衝突することによってイオン化され、次に四重極のフィルタリングによって特定のイオンが選別されます。
その後検出器へ到達し、イオン電流値として計測されます。ここで検出されたイオンの電流値をもとに、ガス成分ごとの圧力を測定することが可能です。
2-6. 磁場偏向型分圧真空計
磁場偏向型分圧真空計とは、磁場を利用して真空中のガス成分を特定し、成分ごとの圧力を測定する真空計です。分圧真空計に分類され、主に高~超高真空領域における低圧でのガス分析を得意としています。
磁場偏向型分圧真空計では、真空中の気体分子に電子を衝突させてイオン化した後、質量分析部に配置されたマグネット(磁場)によってそのイオンを偏向させることで、特定の質量をもつイオンを選別します。選別されたイオンが検出器に到達すると、電流値として計測できます。この電流値から、気体の成分ごとの圧力を測定することが可能です。
3. 真空計には校正が必要
真空計は、圧力の測定精度を維持するためにも定期的な「校正」が欠かせません。校正とは、真空計の読み取り値と既知の基準値を比較し、測定誤差を確認する作業のことです。
真空計は、使用を重ねるうちに圧力測定値に微妙な誤差が生じることもあります。校正を定期的に行うことで、真空計が示す圧力が基準となる圧力からどれほどズレているのかを把握できるほか、今後真空計を使用する際にどの程度の誤差が生じるかを予測することも可能です。
なお、真空計の校正方法は「JIS Z 8750(真空計校正方法)」によって規格化されています。より正確な校正を行うためには、JCSS校正の認定を受けた専門機関に依頼するのがおすすめです。
4. 真空計の選び方
前述の通り、真空計とひとくちに言ってもさまざまな種類があり、測定方法や測定可能な圧力範囲は種類ごとに異なります。1種類の真空計ですべての範囲の圧力を測定するのは不可能なため、測定対象ごとに適切な真空計を選ぶことが大切です。
真空計を選ぶときは、下記のポイントをおさえておくと良いでしょう。
・測定可能な圧力範囲・領域 ・測定精度 ・耐久性 ・メンテナンスのしやすさ ・価格 |
最も重要なのは、「測定したい圧力の範囲や使用環境を考慮すること」です。たとえば、低真空領域ではピラニ真空計、高真空領域では冷陰極型電離真空計が適しているでしょう。
また、真空計の耐久性やメンテナンスのしやすさは、長期的な使用や管理のしやすさに影響を与えるため、業務での使用が継続的に行われる場合には特に重要なポイントです。容易に管理できる真空計を選ぶことで、高い測定精度を保ちながら長く使用できるでしょう。
まとめ
真空計とは、大気圧よりも低い0MPa以下の負圧を測定できる機器のことです。
真空内に含まれる分子や原子を対象に圧力を測定する「全圧真空計」と、真空内に含まれる気体とその組成を対象に特定の成分ごとの圧力を測定する「分圧真空計」の2つに大別されます。
真空計の種類によって測定可能な圧力範囲や測定方式が異なるため、目的に応じて適切な真空計を選ぶことが大切です。
アズサイエンス株式会社では、真空関連機器のほか、研究開発や成分分析に役立つさまざまな製品の販売・提案を行っております。真空環境を必要とする業界の技術者や研究者の方は、お気軽にお問い合わせください。
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