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キャピラリー電気泳動とは?用途や仕様・基本原理など基礎知識を解説

Agilent 7100

キャピラリー電気泳動とは、泳動液を満たしたキャピラリー管内に試料溶液を注入し、両端に電圧をかけて電気泳動を行うことで成分を分離する手法です

キャピラリー電気泳動は、同一サンプル内の陽イオンと陰イオンを連続分析できたり、手間やランニングコストが抑えられるといったメリットがあります。このような理由から医薬品・化学・食品をはじめとした幅広い領域で活用されている分析方法です。

当記事では、キャピラリー電気泳動の概要を解説するとともに、用途や仕様・基本原理などの基礎知識を解説します。

目次

1. キャピラリー電気泳動とは?基礎知識を身に付けよう
1-1. キャピラリー電気泳動の基本原理

2. キャピラリー電気泳動システムの概要と仕様

3. キャピラリー電気泳動の応用分野は?用途や使用目的
3-1. キャピラリー電気泳動の分析事例

4. キャピラリー電気泳動のメリット

まとめ

1. キャピラリー電気泳動とは?基礎知識を身に付けよう

キャピラリー電気泳動とは、「高速液体クロマトグラフィー(HPLC)」と同様に、分離部と検体部からなる分析手法のことです。また、電気泳動は、高電圧を印加した際に液体中の各イオン種の電荷とサイズに応じたイオンが移動する現象です。

キャピラリー電気泳動は、主に、微量のイオン性試料を精密に定性・定量する際に使われます。溶液中の成分をキャピラリーカラムで分離分析することで、陰イオンや陽イオン、有機酸、アミンなどの定性・定量が行えます。試料調製を工夫すれば、非イオン性の中性分子も測定可能な場合があり、幅広い試料測定に対応できるのが特徴です。

1-1. キャピラリー電気泳動の基本原理

キャピラリー電気泳動では、内径20μmから100μmのフューズドシリカ製のキャピラリーが使われます。緩衝液を充填したキャピラリー管内に試料溶液を注入し、両端に電圧を流すことで、成分を荷電・大きさ・形状などに基づく移動度の差異で分離させる仕組みです。

試料に含まれるそれぞれの物質は緩衝液の液性の環境下で、プラスまたはマイナスの電荷を帯びる、もしくは中性の状態で存在します。試料に電圧をかけると、物質は自らが持つ電荷とは反対の電極へ移動し、泳動中の試料は少しずつ分離します。物質の移動速度は物質半径が小さいほど、電荷の強さが強いほど早くなるのが特徴です。
電気泳動に用いられるフューズドシリカ製のキャピラリー管内には、内壁表面のシラノール基によって、「電気浸透流(EOF)」という緩衝液の流れが起こります。電気浸透流は電荷による試料の移動速度より1桁ほど早い緩衝液の流れを発生させるため、キャピラリー電気泳動では1度の分析で「陽イオン・陰イオン・中性分子」のすべてを検出可能です。

(出典:公益社団法人 日本分析化学会「キャピラリー電気泳動装置」
/https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2017/201701nyuumon.pdf
(出典:J-STAGE「キャピラリー電気泳動装置の原理と分析事例」
/https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/63/8/63_482/_pdf/-char/ja

2. キャピラリー電気泳動システムの概要と仕様

キャピラリー電気泳動システムのうち、アジレント・テクノロジー製「Agilent7100」の概要・特徴と仕様を紹介します。

検出器リアルタイムUV-Vis ダイオードアレイ検出器
測定波長範囲190-600nm
測定精度1nm
光源長寿命重水素ランプ
注入モード自動補正付き加圧注入システム
泳動電源電圧範囲:-30kVから30kV
電流:0から300μA、電力0から6W
※定電圧、定電流、または定電力で使用
電力要件ライン電圧:100から240V(最高300W)
ライン周波数:50から60Hz
動作環境温度:5から40度
湿度:結露のない条件のもと31度で相対温度80%まで
寸法(本体のみ)幅350mm×奥行510mm×高さ590mm
※本体以外に、デスクトップパソコンとディスプレイも付属
重量(本体のみ)35kg

アジレント・テクノロジー製「Agilent7100」は、微量のサンプルのみで短時間かつ高分解能な分析を実現する、クラス最高の感度が特徴です。キャピラリー電気クロマトグラフィーをはじめ、さまざまな分離モードを選択できます。さらに、陽イオンや陰イオン、アミノ酸といった異なる成分も1台で分析可能です。

消耗品や試薬キットも充実しており、環境分析・法医学をはじめとする幅広いアプリケーションに対応できます。高価なカラムや溶剤も必要ないため、経済的で環境に優しい点も魅力です。メンテナンスが簡単で、豊富な経験に基づくサポート体制も整っており、安心して導入できます。

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3. キャピラリー電気泳動の応用分野は?用途や使用目的

さまざまな分離モードの開発により、キャピラリー電気泳動は無機イオン・有機イオンといった中・低分子からタンパク質などの高分子までを分析できるようになりました。

キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)やミセル導電クロマトグラフィー(MEKC)、キャピラリーゲル電気泳動(CGE)などの分離方法が幅広い分野に応用されています。特に、キャピラリー等電点電気泳動(clEF)は有用な分離分析装置として認知され、医薬品・化学・食品等の幅広い領域で活用されています。

キャピラリー電気泳動の具体的な用途や使用目的は、以下の通りです。

・飲料水中の無機イオンの含有量調査
・発酵食品、調味料における成分含有量調査
・廃液や水質の調査
・ビタミンや両性電解質の分析
・薬品中の有機化合物分析など

(出典:公益社団法人 日本分析化学会「キャピラリー電気泳動装置」
/https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2017/201701nyuumon.pdf
(出典:J-STAGE「キャピラリー電気泳動の食品・医薬品分析への応用」
/https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/39/1/39_1_19/_pdf/-char/ja

3-1. キャピラリー電気泳動の分析事例

キャピラリー電気泳動の分析事例として、めっき液の分析を紹介します。試料調製が容易で高精度なキャピラリー電気泳動は、目的成分の濃度が高く、夾雑成分が多いめっき液の分析に有用とされています。

例えば、キャピラリー電気泳動を用いると、蒸留水で希釈したワット浴・クエン酸浴・スルファミン酸浴の各電気ニッケルめっき液の主成分を一斉に分析可能です。分析できる各電気ニッケルめっき液の主成分としては、塩化物イオン・硫酸イオン・スルファミン酸・クエン酸・ホウ酸・ニッケルイオンが挙げられます。

電気ニッケルめっき液は、装飾や防食めっきとして、工業に広く使われる液体です。ワット浴は主に装飾用に広く使用され、スルファミン酸浴は電鋳用として用いられます。近年では、水質規制をクリアするため、ホウ酸の代替成分としてクエン酸を含むクエン酸浴も実用化されました。
上記のような複数成分の一斉分析は、キャピラリー電気泳動の特徴であり、めっき液分析に頻繁に使われています。泳動液にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤を添加し、金属イオンと錯体を形成させて分析するのが特徴です。

(出典:J-STAGE「キャピラリー電気泳動装置の原理と分析事例」
/https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/63/8/63_482/_pdf/-char/ja
(出典:J-STAGE「キャピラリー電気泳動装置の原理とめっき液組成の分析事例」
/https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/54/4/54_4_263/_pdf/-char/ja

4. キャピラリー電気泳動のメリット

キャピラリー電気泳動のメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

・前処理が容易
・同一サンプル内の陽イオンと陰イオンを連続分析できる
・手間やランニングコストが抑えられる

例えば、主にイオン主成分を測定する液体クロマトグラフィーの1つである「イオンクロマトグラフィー」では、前処理として妨害有機物やカウンタイオンの除去が必要です。カラム保護の処理が必要なケースもあります。

キャピラリー電気泳動分析では、原則としてサンプルの希釈のみで前処理が完結します。前処理に手間と時間がかからない点がメリットです。また、細い管の内部で電気泳動を行うため、数nLの極少量のサンプル使用で済みます。

イオンクロマトグラフィーで同一サンプル中の陽イオンと陰イオンを分析するには、カラム交換が必要です。しかし、キャピラリー電気泳動では、同一サンプル内の陽イオン・陰イオンを同じキャピラリーで連続分析できます。

キャピラリー電気泳動は、分析に必要な電解質量も数十mLと少ない溶媒消費量で済みます。また、分析サンプルは腐食性があるため、従来のイオンクロマトグラフィーでは徹底したメンテナンス作業が必須でした。
一方、キャピラリー電気泳動ではイオンクロマトグラフィーと比べて分析時間を3分の1に短縮できます。分析にかかる手間や長期的なランニングコストが抑えられる点が魅力です。さらに、幅広いモードによる連続自動分析など、高度な機能もメリットです。

(出典:公益社団法人 日本生物工学会「キャピラリー電気泳動を使って代謝成分を測定してみよう」
/https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9303/9303_biomedia_5.pdf

まとめ

キャピラリー電気泳動は、主に医薬品・化学・食品といった分野で活用されています。具体的には、飲料水中の無機イオンの含有量や発酵食品、調味料における成分含有量などの調査に使われるケースが多いでしょう。

キャピラリー電気泳動なら、前処理に手間と時間がかかりません。さらに同一サンプル内の陽イオンと陰イオンを連続分析できたり、手間やランニングコストが抑えられたりといったメリットがあります。

キャピラリー電気泳動についての理解を深め、ぜひ自分の研究や業務に生かしてください。

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