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イオンクロマトグラフとは?基礎知識や用途を分かりやすく解説
イオンクロマトグラフは、無機イオンや有機酸などのイオン性物質、およびタンパク質・核酸・アミノ酸などの電荷を持つ分子を含むサンプルの定性的・定量的な測定を行う装置です。さまざまな分野で活用されており、例えば、水質検査においては、水道水、川の水、海水などから無機塩類や有害物質を検出するのにイオンクロマトグラフが使用されています。
当記事では、イオンクロマトグラフとは何かといった基礎的な内容から、イオンクロマトグラフの構成まで詳しく解説します。
目次 1. イオンクロマトグラフとは 1-1. そもそもクロマトグラフ・クロマトグラフィーとは 1-2. イオンクロマトグラフィーで測定できる成分 1-3. イオンクロマトグラフィーの原理 2. イオンクロマトグラフの構成 3. イオンクロマトグラフィーの仕様 3-1. イオンクロマトグラフィーにおける試料の前処理方法 4. イオンクロマトグラフィーの主な使用目的 まとめ |
1. イオンクロマトグラフとは
イオンクロマトグラフとは、イオン交換体を固定相に使用し、無機イオンや有機酸などのイオン性物質を定性・定量分析する装置です。サンプル中の物質がイオン交換体上でとどまる時間が電荷の強さによって異なる性質を利用して、成分を分離します。
装置の構成は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に似ており、特にイオン性物質の測定にはサプレッサー部が含まれていることが一般的です。サプレッサー部は移動相中の不要なイオンを取り除き、検出感度を高める役割があります。
イオンクロマトグラフは、環境水の検査や食品の品質管理、生化学研究など、多岐にわたる分野で利用されています。
1-1. そもそもクロマトグラフ・クロマトグラフィーとは
クロマトグラフィー、クロマトグラフ、クロマトグラムという用語は、分析化学の基本的な用語で、似たような言葉ですが、意味はそれぞれ異なります。
クロマトグラフィー/Chromatography | 分離手法の1つです。物質の吸着力の違いを利用して混合物を成分ごとに分ける方法を指します。 |
クロマトグラフ/Chromatograph | クロマトグラフィー法を用いるための具体的な分析装置のことです。分離した成分の定量分析などに用いられます。 |
クロマトグラム/Chromatogram | クロマトグラフを使用して得られた分析結果の記録や図を意味します。 |
1-2. イオンクロマトグラフィーで測定できる成分
イオンクロマトグラフィーは、特に無機イオンの測定に適しており、陰イオンや陽イオンなどの分析が可能です。酸解離定数が7以下で、価数が1または2のイオンを主に測定します。
【測定できる主な成分】
- 無機陰イオン
- 無機陽イオン
- 有機酸陰イオン
- アミン類陽イオン
例えば、塩化物イオンや硫酸イオンなどの無機陰イオンや、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの無機陽イオンが測定対象です。さらに、有機酸、低級脂肪酸、有機系スルホン酸などの有機成分や、アミン類やアルコール、アミノ酸、糖類および糖アルコールのようなより複雑な化合物もイオンクロマトグラフィーで分析できます。
1-3. イオンクロマトグラフィーの原理
イオンクロマトグラフィーは、液体試料中のイオン成分を分離し検出する技術です。
イオンクロマトグラフィーでは、試料を溶離液(移動相)に注入し、分離カラム(固定相)内でイオン交換分離を主に利用してイオンを分離します。カラム内では、イオンがイオンの価数やイオン半径などの物理的特性に基づいて異なる速度で通過し、これにより成分が分離されます。イオンがカラムを通過する際の保持時間は、イオンの種類によって異なり、この時間を標準試料と比較することで、成分の種類を特定することが可能です。
また、分離後のイオン成分は、サプレッサーを経て感度を高めながら検出器に到達します。使用される検出器には、電気伝導度検出器や電気化学検出器、蛍光検出器、質量分析計UV検出器などがあり、これらの検出器を通じて、溶液中のイオン濃度と測定強度の比例関係を利用して定量分析を行うことが可能です。
2. イオンクロマトグラフの構成
イオンクロマトグラフの構成は、主に以下の通りです。
送液部 | 溶離液をカラムに送り出す部分です。ポンプが装備されており、プランジャー(棒状のピストン)の往復運動によって溶液を一定の流量でカラムに押し出します。 |
試料注入部 | 測定する試料を装置に自動的に注入します。通常、オートサンプラーが用いられ、これによりバイアル瓶に充填された水溶液試料をシリンジで採取し、装置に自動的に注入することが可能です。 |
分離部 | イオン交換樹脂が充填されたカラムが使用されます。このカラム内で溶離液(移動相)とイオン交換樹脂との相互作用により、混合状態の試料内のイオンが分離されます。各種イオンはカラムを通過する際に異なる保持時間(リテンションタイム)で溶出され、これにより分離が可能です。 |
検出部 | 分離されたイオン種成分を測定します。カラムから溶出された各イオン成分は検出器によって検出され、溶離液のみの信号からの変化量を測定することで、試料中のイオン成分の存在を確認し定量します。 |
データはその後、データ処理部で解析され、クロマトグラムとして出力されます。
3. イオンクロマトグラフィーの仕様
イオンクロマトグラフィーの一般的な仕様として、測定必要量は数mL、測定可能形態は液体や水溶液です。
イオンクロマトグラフィーで測定可能な試料は、主に純水に溶解する物質が対象です。酸やアルカリ、あるいは有機溶媒に溶解する試料も一部測定可能ですが、試料中に測定目的成分以外の物質が多量に含まれている場合、分析の精度が低下するリスクがあります。
そのため、油脂や有機溶媒、タンパク質などカラムを劣化させる可能性のある成分は、前処理を施して除去する必要があります。また、界面活性剤や強い酸化剤、還元剤のようなカラムに悪影響を及ぼす成分も同様です。気体試料の場合は、液体に吸収させた後、その吸収液中のイオンを測定します。
3-1. イオンクロマトグラフィーにおける試料の前処理方法
イオンクロマトグラフィーにおける試料の前処理は、共存成分の影響を抑え、カラムの劣化や流路の目詰まりを避けることが目的です。以下のように、試料の種類や性質に応じて異なる前処理方法を選択しましょう。
ろ過 | カラムや流路の目詰まりを防ぐ基本的な手法です。0.2~0.5μmの細孔径を持つディスポーザブルのメンブランフィルタを使用します。不溶解物が多く含まれる試料は遠心分離を行った後に効率的にろ過できます。 |
希釈 | イオン交換水または移動相溶液で行われ、使用するカラムの負荷量や定量可能範囲に基づいて希釈倍率が決定されます。目的成分が溶液に含まれていないことを確認するために、希釈された溶液は必ずブランク測定を行います。 |
溶解・抽出 | 固体や有機溶媒に含まれる試料が対象で、水中に適切に抽出または溶解させることでイオン化を促します。難水溶性の固体は有機溶媒に溶解後、水抽出を行います。 |
ミニカラム | イオン交換樹脂や疎水性充填剤を使って不要な物質を化学的に除去します。添加回収率試験やブランク測定の実施が必要です。 |
試料が固体や気体の場合は、当然ながら試料を水溶液化する処理が必要です。
4. イオンクロマトグラフィーの主な使用目的
イオンクロマトグラフィーは、環境測定、品質管理、研究開発など多様な分野で活用されており、公定法にも広く採用されています。例えば、水道水から排ガス中の窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)、食品中のリン酸塩や工場排水中のフッ化物イオンなどが測定対象です。
公定法においても、日本工業規格(JIS)や、工業用水試験方法、工場排水試験方法、坑水・廃水試験方法、塩試験方法…など、さまざまな分野でイオンクロマトグラフィーが採用されています。
まとめ
イオンクロマトグラフィーは環境サンプル、食品、薬品などの分析に幅広く応用されている手法です。イオンクロマトグラフィーの使用により、分析対象イオンの定量が可能となり、測定データは環境規制の遵守、製品品質の確保、新しい材料や化合物の研究開発などに役立てられています。
分離後のイオン成分は、サプレッサーを経て感度を高めながら検出器に到達します。使用される検出器には電気伝導度検出器や電気化学検出器、蛍光検出器、質量分析計、UV検出器などがあり、これらの検出器を通じて、溶液中のイオン濃度と測定強度の比例関係を利用して定量分析が行われます。
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