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QTOF-MSとは?質量分析計の種類や基本原理・用途を解説

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QTOF-MS(四重極飛行時間型質量分析計)は、質量分析に用いられる装置であり、四重極型と飛行時間型の2つの質量分析法を組み合わせているため、高分解能での質量分析が可能です。

QTOF-MSは、未知の化合物や複雑な混合物の同定・定量に優れており、特に医薬品開発、環境分析、食品安全など、さまざまな分野で利用されています。当記事では、QTOF-MSの基本原理から使用用途まで詳しく解説します。

目次

1. QTOF-MSとは?
1-1. 質量分析計の種類

2. QTOF-MSの基本原理
2-1. QTOF-MSを使うメリット
2‐2. QTOF-MSの注意点

3. QTOF-MSの使用用途
3-1. 薬物分析
3‐2. 環境分析
3‐3. 創薬分野

まとめ

1. QTOF-MSとは?

QTOF-MSとは、四重極型と飛行時間型を組み合わせたハイブリッドの質量分析計です。「四重極飛行時間型質量分析計」とも呼ばれ、2台の質量分析計を使用するMS/MS測定が行えます。

QTOF-MSは2種類の質量分析計を組み合わせることによって、さまざまなイオンを同時に、かつ高分解能・高質量精度で分析可能です。複雑な混合物や未知の化合物における同定・定量に使われています。

1-1. 質量分析計の種類

そもそも質量分析計とは、化合物を構成している原子や分子の質量を測定する装置のことです。

測定の際はイオン源と呼ばれる部位で分子をガス状にイオン化した上で、質量分析部でイオンを電磁気的に分離し、検出器でイオンの検出を行います。

質量分析計は、質量分析部で採用されている質量分析法の違いによっていくつかの種類に分けられます。質量分析計の主な種類は下記の4つです。

・四重極型
四重極型は、質量分析部の中心軸から等距離かつ平行に4本の電極が配置されていて、内部に電場が作られる形式です。イオン源から導かれたイオンは、電場を通過して検出器に到達するか、到達できずに排除されます。

・イオントラップ型
イオントラップ型は2つの電極間に高周波電圧の領域を作り、領域内にイオンを留めます。電極にかける高周波電圧を徐々に高くすると、質量が異なるイオンだけが検出器側へと排出されて、質量の測定ができる仕組みです。

・磁場型
磁場型は、質量分析部が扇形などの形状をしていて、イオンが直進して検出器に到達できないようになっています。イオンが磁場を通るときに、磁場の影響を受けて軌道が曲がる仕組みを利用する形式です。

・飛行時間型
飛行時間型は、イオンに加速電圧を与えることで質量分析部の内部を飛行させて、検出器に到達するまでの時間を比較する形式です。イオンの飛行速度は質量と関係があり、飛行時間の差によって質量の分析が行えます。

2. QTOF-MSの基本原理

QTOF-MSの基本原理は、装置を構成する四重極型・飛行時間型の原理にもとづいています。

四重極型
四重極型では、4本の電極に直流と高周波交流を重ね合わせた電圧をかけて、質量分析部の内部に高速で位相が変化する電場を作ります。
質量分析部に導かれたイオンは、電場の影響を受けて上下左右に振動しながら検出器へと進みます。
電圧をある条件に変化させたとき、特定のm/z値(質量電荷比)を持つイオンは振動が安定して、電場を通り抜けて検出器に到達することが可能です。その他のm/z値を持つイオンは振動が大きくなり、電極に衝突したり系外に飛び出したりして、検出器に到達できません。よって、特定のm/z値を持つイオンのみを分離・検出することが可能です。
飛行時間型
飛行時間型は質量分析部の内部をイオンが飛行して、飛行時間の差によって質量の比較を行います。
イオンは質量が小さいほど飛行速度が速く、反対に質量が大きいほど飛行速度が遅くなることが特徴です。
イオン源から質量分析部に入ったイオンは、質量差によって検出部に到達する時間に差が生まれます。飛行時間の差を質量差に変換して、分子量決定につなげるという原理です。

2-1. QTOF-MSを使うメリット

四重極型と飛行時間型のハイブリッドであるQTOF-MSは、さまざまな場面で使用されている質量分析装置です。主にタンパク質分析や分子化合物の構造確認、汚染物質のスクリーニング・解析などに活用されています。

また、QTOF-MSは幅広いイオン化法に対応することが可能です。イオントラップ型のようにイオンを滞留させるシステムでもないため、分析スピードが速く、スムーズなデータ取得を実現できます。

2‐2. QTOF-MSの注意点

QTOF-MSを使用する際は、下記の注意点があることも押さえておきましょう。

・熱的に不安定な試料は使えない
QTOF-MSの多くは、フィラメントから発生した熱電子を測定試料の分子に衝突させるEI法によって、分子のイオン化を行います。熱的に不安定な試料は、熱分解によって別の化合物に変化する可能性があるため、EI法を用いるQTOF-MSでは使えません。

・極性が高い成分は測定が困難になりやすい
QTOF-MSを構成する四重極型は、電場でイオンを振動させることで質量分離・検出を行う仕組みです。しかし、試料分子にもともと電気的な偏り(極性)があると、測定を行っても目的のイオンを検出できない可能性があります。極性が高い成分は測定が難しい点に注意してください。

3. QTOF-MSの使用用途

QTOF-MSは食品分野や環境分野だけでなく、薬物や創薬、残留農薬の分析にも活用できます。

最後に、QTOF-MSの使用用途を3つに分けて、どのような目的で使われているかを解説します。

3-1. 薬物分析

薬物分析は、固体・液体・粉体中に含まれる薬物成分を突き止めることを目的とした分析方法です。

近年は危険ドラッグと呼ばれる薬物が増えており、ハーブやアロマなどの製品として販売されているケースもあります。分析対象に含まれている薬物を同定し、法律で規制されている成分でないかを調べるために薬物分析が用いられます。

危険ドラッグは法規制を逃れるために、従来の薬物の一部を別の官能基に置き換える作業を行って、類似機構を持った未知の薬物が合成されるケースも珍しくありません。QTOF-MSは未知の化合物の分析にも対応できるので、分子構造がデータベースにない未知の薬物であっても定量・構造解析が行えます。

3‐2. 環境分析

環境分析は、産業活動で使用された薬剤や農薬類などが、土壌・大気・水質といった環境にどのような影響を与えているかを調べる分析手法です。

QTOF-MSを用いた環境分析では、高い分解能と質量精度により、汚染物質を環境に残留している濃度で同定できます。

環境分析でQTOF-MSがよく用いられる事例が、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタン酸)の検査です。

PFOS・PFOAはともにフッ素系界面活性剤であり、撥水性・撥油性を持っているため、表面処理剤や柔軟剤などの用途で使われていました。現在は、人体や環境への影響が大きいとして製造・使用が禁止されている物質です。

しかし、PFOS・PFOAの影響は環境などに依然として残っており、QTOF-MSによる環境分析が行われています。

3‐3. 創薬分野

QTOF-MSは創薬分野にも活用されています。新薬開発時のサンプルをQTOF-MSで分析することにより、化合物や代謝物を高い信頼性での同定や組成分析・特性解析が可能です。

QTOF-MSは2つの分析手法をハイブリッドしているため、スピーディーな分析が行える点がメリットです。新薬開発にかかる分析時間や、薬品の候補選択にかかる判断時間を大きく削減できて、開発研究や臨床研究から審査までにかかる期間の短縮につながります。

まとめ

QTOF-MSは、四重極型と飛行時間型の質量分析法を組み合わせたハイブリッドな装置で、幅広い分析用途に対応可能です。未知の化合物の構造解析や定量も可能であり、薬物分析や環境分析、創薬分野で非常に有用なツールとなっています。特に未知の化合物に対する柔軟性が高く、データベースに存在しない化合物の解析も可能です。QTOF-MSの特性を理解し、適切に使用することで、より正確で信頼性の高い分析結果を得られるでしょう。

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