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直接分析用イオン源とは?原理や活用分野について解説

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質量分析法はイオン化した物質の質量を測定する分析手法であり、医薬品や科学(化学)をはじめとしたさまざまな業界の研究・開発・調査に用いられています。「Mass Spectrometry」の頭文字をとって「MS(マス/エムエス)」とも呼ばれています。

そして、質量分析法においてよく導入される化学イオン化法の1つが「直接分析用イオン源」です。直接分析用イオン源は、特に迅速な分析が求められる場合に有用な技術となります。

今回は、質量分析法の重要な技術である直接分析用イオン源の基本情報から、原理・活用メリットまで詳しく紹介します。医療・化学・生物分野の研究に用いる技術や機器について詳しく知りたいという方は、ぜひ参考にしてください。

目次

1. 直接分析用イオン源とは?
1-1. そもそもイオン源とは?
1‐2. 質量分析計とは

2. 直接分析用イオン源の原理
2-1. 正イオンと負イオン

3. 直接分析できるイオン源を使うメリット
3-1. 前処理なしで分析できる
3‐2. さまざまな分野で活用できる

まとめ

1. 直接分析用イオン源とは?

直接分析用イオン源とは、あらゆる形状・状態をした試料の前処理を行わずに、または最小限に抑えてそのまま試料分子をイオン化する技術です。

質量分析法に直接分析用イオン源を導入した場合、通常の質量分析法で行われるような前処理は必要なくなるほか、通常の分析機器では扱えない不定形の試料や汚れた試料もそのまま質量分析計にかけることができます。

こうした特徴から、質量分析法において迅速な分析が求められる場合には、直接分析用イオン源が特に有用とされています。

1-1. そもそもイオン源とは?

そもそも質量分析法におけるイオン源とは、何らかの試料(物質)を「イオン」という電気を帯びた粒子に変換するため、つまり物質をイオン化させるための装置です。

質量分析法では、「質量分析計」という装置を用いて物質の分子構造や化学組成、さらにその質量を電磁気的に分析します。そのため、質量分析法を用いる際は対象の物質をイオン源でイオン化し、電荷を帯びた状態にしなければなりません。

イオン源によるイオン化のメカニズムは、下記の通りです。

  1. イオン源内の特定の場所に配置された分析試料に、高エネルギーの電子やレーザーといったエネルギー源が照射されます。
  2. 試料の分子や原子は、外部からのエネルギーを吸収することによって通常よりも高いエネルギー状態(励起状態)に移行します。試料から一部の電子が放出されたり、プラズマが生成されたりします。
  3. 放出された電子や生成されたプラズマによって、試料の分子や原子がイオン化されます。正の電荷を帯びたイオンはイオン源から押し出され、電子レンズで収束されたのち質量分析計に導かれます。

すべての質量分析法において、必ずしもイオン源が用いられるわけではありません。しかし、質量分析法は試料をイオン化して質量分析計に導入することが基本となっており、ほとんどのケースでイオン源が重要な役割を果たしています。

1‐2. 質量分析計とは

前述の通り、イオン化された物質は、イオン源から押し出されたのち質量分析計に導かれます。質量分析計とは、イオン化した物質の質量を測定する装置のことです。「質量分析装置」とも呼ばれています。

質量分析法と混同する方も多くいますが、質量分析法(Mass Spectrometry)は分析法の総称であるのに対し、質量分析計(Mass Spectrometer)は質量分析法の核となる分析装であることを覚えておきましょう。

イオン化された試料は、質量分析計によって分子量・分子量分布や分子構造、末端基、共重合組成などがまず測定された後、質量分析計内の質量分離部で「m/z(Mass to Charge Ratio)」に応じて分離されます。これにより、異なるm/z比をもつイオンが分離されます。

【m/zとは】

イオンの質量(m)を電荷数(z)で割った値のことで、「質量電荷比」とも呼ばれます。

分離されたイオンは検出器で捉えられ、電気信号として記録されたデータがマススペクトルとして可視化・分析されます。マススペクトルからは、試料中の化合物や分子イオンの質量数、組成、構造などを推定可能です。

2. 直接分析用イオン源の原理

直接分析用イオン源は、従来のイオン源とは違ってあらゆる形態の試料をより迅速に分析できる新たなイオン源です。
日本ではいくつかの直接分析用イオン源が販売されていますが、中でも特に代表的な製品としては「DART™(Direct Analysis in Real Time)」が挙げられます。DART™とは、正式名称の通り「リアルタイムでのサンプル分子の直接分析」を目的としたイオン源であり、下記のような方法で試料を分析できるようになっています。

分析方法主な試料例
液体をガラス棒に付着させて分析する抗血栓薬・飲料・体液 など
固体をピンセットに挟んで分析する錠剤・紙類・衣服・食品 など
粉末をセラミックシートに包んで分析する顆粒剤・スパイス・覚せい剤 など

DART™イオン源が迅速な質量分析を可能とする理由は「励起状態となった分子や原子の試料および大気ガスとの相互作用」にあります。

DART™では、試料に導入したヘリウムガスをニードル電極で放電することによって、プラズマを生成します。このプラズマには、イオンや電子のほか、励起状態となった分子や原子が含まれています。設置された電極によって大部分の荷電粒子が除去され、励起状態の中性気体分子のみが大気中へ放出されることとなります。

さらに、必要に応じてガスを加熱するヒーターが用いられ、分析対象物質の気化や物質表面からの熱脱着を促進します。これにより、不定形の試料や汚い試料も前処理の必要なく、リアルタイムで高分解能マススペクトルを得ることが可能となります。

2-1. 正イオンと負イオン

直接分析用イオン源の仕組みについてより詳しく理解するためには、「正イオン」と「負イオン」の概要と役割の理解も欠かせません。

正イオンとは、正の電荷を帯びた原子や分子のことです。「プラスイオン」とも呼ばれます。一方の負イオンとは、正イオンとは反対に負の電荷を帯びたイオンのことで、マイナスイオンとも呼ばれています。

直接分析用イオン源において、正イオンと負イオンはそれぞれ下記の流れで生成されます。

正イオン励起状態にあるヘリウム原子が大気中の水と反応し、「プロトン化水クラスター」を生成します。生成されたプロトン化水クラスターが分析対象の物質と反応し、正イオンである「プロトン化分子」を生成します。
負イオン励起状態にあるヘリウム原子が出口グリッド電極と大気中の中性種と相互作用し、ペニングイオン化します。ぺニングイオン化によって生成された電子は大気中のガスと衝突して減速し、大気中の酸素と反応して「酸素負イオン」を生成します。この酸素負イオンがさらに試料の分子と反応することによって、分析対象の物質の負イオンを生成します。

3. 直接分析できるイオン源を使うメリット

質量分析に直接分析用イオン源を使うことには、さまざまなメリットがあります。

最後に、直接分析のできるイオン源を質量分析に用いるメリット3つをそれぞれ詳しく説明します。実験・研究・調査の効率を高めたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

3-1. 前処理なしで分析できる

直接分析用イオン源の最大のメリットは、前処理なしでイオン分析ができるという点です。

一般的なイオン源では試料を正確にイオン化するために、試料に含まれた不純物や不要な物質を取り除いたり、試料を適切な形状・状態に整えたりする必要がありました。しかし、直接分析用イオン源では前処理が不要で、サンプルの形状を問わずにイオン化することが可能です。

これにより、前処理工程の時間と手間を大幅に削減できるだけでなく、変性しやすいサンプルもリアルタイムで素早く分析できるようになります。食料・飲料品や芳香剤など、時間の経過によって味や香りが変化するサンプルの分析には特に有効な分析手段と言えるでしょう。

3‐2. さまざまな分野で活用できる

直接分析用イオン源では、固体サンプルや液体サンプルはもちろん、気体サンプルなど試料の形態を問わず分析できます。したがって、幅広い業界・分野で活用できることも特徴です。

直接分析用イオン源の主な活用分野としては、下記が挙げられます。

分野主な分析用途
医薬品・バイオ医薬品分野バイオ医薬品を含む医薬品の製造・品質管理を目的としたイオン質量分析に活用されています。
食品・農業分野食品・飲料品の品質管理や、農作物に含まれる栄養素・添加物・農薬の検出を目的としたイオン質量分析に活用されています。
環境分野大気や水質、土壌中の環境有害物質(汚染物質・化学物質)の調査など、主に環境監視および保全を目的としたイオン質量分析に活用されています。
法医学・犯罪科学分野繊維・ポリマー・コンポジット材料といった微量物証の組成分析や品質管理のほか、爆発物の特定・検出、麻薬や覚せい剤の使用現場における証拠の特定を目的としたイオン質量分析に活用されています。

まとめ

直接分析用イオン源とは、あらゆる形状・状態をした試料を前処理なしで、または最小限に抑えてイオン化できる技術です。

一般的なイオン源では扱えない不定形の試料や汚れた試料もそのまま質量分析計にかけられ、正確なリアルタイム分析が可能となります。固体・液体・気体などサンプルの形態を問わず分析でき、医薬品・バイオ医薬品分野から法医学・犯罪科学分野まで幅広い分野で活用されています。

アズサイエンス株式会社では、日本ウォーターズが販売する超小型の直接分析用イオン源を取り扱っております。複雑な前処理の必要なく、液体試料・固体試料の質量分析を迅速かつ簡便に行うことが可能です。直接分析用イオン源を研究に活かしたいという方は、ぜひ一度アズサイエンス株式会社にお問い合わせください。

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