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LC-TOF/MSとは?基本原理や使用用途・分析事例を解説

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LC-TOF/MSは、液体クロマトグラフ(HPLC)と飛行時間型質量分析計(TOF-MS)を組み合わせた分析手法です。複雑な有機化合物や生体分子の分析に適しており、化合物の特定や特性解析に幅広く利用されています。

当記事では、LC-TOF/MSの基本的な原理やメリット、使用用途について詳しく解説します。また、差分分析や分子量測定など、LC-TOF/MSを使う際に併用される手法にも触れているため、LC-TOF/MSについて詳しく知りたい方はぜひご覧ください。

目次

1. LC-TOF/MSとは?
1-1. 質量分析計とは?

2. LC-TOF/MSの基本原理
2‐1. LC-TOF/MSを使うメリット

3. LC-TOF/MSの使用用途
3-1. 差分分析
3‐2. 分子量測定
3‐3. 有機構造解析
3‐4. 同定・比較解析
3‐5. 特性解析

まとめ

1. LC-TOF/MSとは?

LC-TOF/MSとは、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分離した微量有機成分の質量分析に使われる装置です。日本語では「液体クロマトグラフ飛行時間型質量分析計」と呼ばれます。

微量有機成分を構成する化合物を特定する方法の1つに、質量から化合物の同定を行う手法があります。

しかし、微量有機成分は質量が小さく、一般的な秤では測定できません。LC-TOF/MSは微量有機成分をイオン化し、イオンの運動を観察することで質量分析を行います。

1-1. 質量分析計とは?

質量分析計とは、物質の動きにくさの度合いを表す「質量」を測定する計測装置です。

物質は原子や分子の集まりで構成されていて、原子や分子はそれぞれが質量を持っています。質量分析計で物質の質量を調べると、物質が何で構成されているかを理解することが可能です。

質量分析計で測定する際は、装置のイオン源と呼ばれる部分で分子をイオン化します。イオン化の目的は、分子に電荷を持たせて、電磁気的に分離できるようにすることです。

イオン化の方法はいくつかの種類があり、「EI(電子イオン化法)」と「CI(化学イオン化法)」の2つが代表的な方法です。

EIでは、フィラメントから発生した熱電子を試料の分子に衝突させて、分子が電子を放出することによりイオン化させます。

CIは、イオン化した試薬ガスを使用し、試料の分子と反応させることでイオン化させる方法です。

イオン化した分子は装置の質量分析部(質量分離部)に導かれ、電磁気的に分離された後にイオンの運動を観察して、質量を求めます。

2. LC-TOF/MSの基本原理

LC-TOF/MSでは、イオン化した試料の分子は加速された状態で質量分析部に入り、真空に近い状態の内部を飛行します。

イオンの加速度は分子が持つ質量電荷比(m/z)によって異なり、質量分析部で飛行する速度にも影響します。質量が軽い分子のイオンは速く飛行し、反対に質量が重い分子のイオンは遅く飛行することが特徴です。

質量分析部の終端には検出器があり、早く飛行するイオンほど飛行時間は短く、遅く飛行するイオンは飛行時間が長くなります。

飛行時間の計測によってイオンを生成した分子の質量を求めて、分子結合の構造解析を行うことが、LC-TOF/MSの基本原理です。

2‐1. LC-TOF/MSを使うメリット

LC-TOF/MSは計測できる分子量の範囲が広く、採用するイオン化法の切り替えによってさまざまな化合物の分析に使用できる点がメリットです。

計測によって得られる質量精度が高く、計測結果に同位体ピークがあれば同位体比の計算によって結果の信頼性をさらに高められます。

また、熱的に不安定で分解しやすい試料も、有機溶媒に微溶であればLC-TOF/MSで測定できます。

ただし、試料溶離液のバッファーが不揮発性のものである場合は、LC-TOF/MSは使用できません。LC-TOF/MSのイオン化法でよく用いられるEIは試料をガス状にする必要があり、試料が揮発性に乏しいとイオン化が難しいためです。一方、ESI(エレクトロスプレーイオン化法)であれば、揮発性の低い化合物の分析にも対応可能です。

3. LC-TOF/MSの使用用途

LC-TOF/MSは、下記のような用途で使用されている計測方法です。

・高分子添加剤の分析・フラーレン誘導体に含まれる不純物の構造解析・タンパク質やペプチドなど生体分子の解析・バイオテクノロジーで生成されたタンパク質の特性解析・食用油の劣化にかかわる物質の分析など

LC-TOF/MSを使用した分析では、さまざまな分析手法が用いられています。

以下では、LC-TOF/MSと併用される分析手法を5つ挙げて、それぞれの分析で分かることを解説します。

3-1. 差分分析

差分分析とは、分析する試料と照らし合わせる対照品を用意し、比較を行って試料にどのような特徴があるかを分析する手法です。

LC-TOF/MSでは試料と対照品をそれぞれ測定した後に、マスクロマトグラムで差の見られる成分を抽出して、成分の構造解析と差分分析を行います。

差分分析によって発見できる成分の差や、試料の特徴は対照品によって変わります。対照品を適切に選ぶことで、良品と不良品の差や、製品のロット間に存在する差、時間経過による成分の変化などを発見可能です。

3‐2. 分子量測定

分子量測定とは、タンパク質や核酸といった有機物の分子量を測定する手法です。

LC-TOF/MSを用いた分子量測定では、LC-TOF/MSで試料の質量を測定した後に、結果をマススペクトルで表示します。マススペクトルはイオンの質量分布をグラフ化していて、縦軸の検出強度と横軸のm/z値(質量電荷比)から、分子量や分子構造などの情報が分かります。

ただし、目的外の化合物が同時に溶出していると、マススペクトルのピークが干渉を受ける可能性があります。マススペクトルに対してデコンボリューション(演算処理)を行うことで、有機物の正確な分子量を確定可能です。

3‐3. 有機構造解析

有機構造解析とは、マススペクトルから有機物の構造解析を行う手法です。

LC-TOF/MSの測定で得られるマススペクトルには、化合物の検出を表すピークが表示されています。目的のピークの質量を調べ、元素組成の計算を行うことで、質量から分子式を計算可能です。

さらにNMR(核磁気共鳴分析)との組み合わせにより、有機物の構造式を高精度で分析できます。

3‐4. 同定・比較解析

同定・比較解析は、生物由来の試料に含まれるタンパク質の構造や機能を解析する手法です。

同定・比較解析を行う際は準備として、タンパク質を発現させた上で抽出・分離し、タンパク質を切断してペプチド断片を作ります。後はLC-TOF/MSを使用して、ペプチド断片の質量を測定するという流れです。

測定結果から得られたペプチド断片の質量と、ゲノムデータをもとに予測したタンパク質のペプチド情報を比較することにより、試料に含まれるタンパク質の同定が行えます。

3‐5. 特性解析

特性解析は、主にバイオ医薬品に含まれるタンパク質の構造や物理化学的性質などを調べるための手法です。

タンパク質をペプチド断片にした後に、LC-TOF/MSでペプチド断片の質量を測定し、専用ソフトウェアで解析することでタンパク質の詳しい分析が行えます。

バイオ医薬品には遺伝子組み換え技術を使用したタンパク質が使われていて、成分中のタンパク質には分子構造が多様になる「不均一性」が生じやすくなっています。

不均一性はバイオ医薬品の安全性・有効性に影響を及ぼす可能性があるため、特性解析でタンパク質の構造などを調べることが重要です。

まとめ

LC-TOF/MS(液体クロマトグラフ飛行時間型質量分析計)は、複雑な有機化合物や生体分子の分析を高精度に行える装置です。特に、異なるイオン化法を採用することで多様な化合物の分析が可能であり、バイオ医薬品の特性解析や食品成分の分析など、幅広い分野で利用されています。

質量分析の手法と併せて使用することで、より正確で信頼性の高いデータが得られるため、今後もさらなる応用が期待されます。

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