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固相抽出とは?原理や作業手順など基礎知識を徹底解説

Otto-SPEcialist-加圧マニホールド

固相抽出(Solid Phase Extraction、 SPE)は、液体サン

プルから特定の化合物を分離、濃縮するための一手法です。固相抽出では、ターゲット化合物が選択的に吸着する固定相(固体)と、サンプルが含まれる液相が用いられます。

選択性が高く目的成分の分離が可能、試料中の不純物の除去が可能、操作が比較的簡単なので短時間で分析を完了できるといったメリットがあります。

当記事では、固相抽出について詳しく解説します。

目次

1. 固相抽出とは
1-1. 固相抽出と液液抽出の違い
1-2. 固相抽出の利点
1-3. 固相分離剤の種類

2. 固相に分離目的物質が保持される原理
2-1. 疎水性相互作用
2-2. 極性相互作用
2-3. イオン交換

3. 固相抽出の手順
3-1. コンディショニング
3-2. 試料添加
3-3. 洗浄
3-4. 溶出

まとめ

1. 固相抽出とは

固相抽出は、化学分析の前処理段階で用いられる手法の1つです。特定の化合物を液体サンプルから分離し、濃縮する目的で開発されました。具体的には、1970年代後半にアメリカで高速液体クロマトグラフィーの研究過程で考案された手法です。

固相抽出は、充填剤(固相)が詰められたミニカラムを使用し、サンプル溶液を通過させることにより、目的物質と不要物質を効率的に分離します。固相抽出は操作が比較的簡単であり、また使用する有機溶媒の量が少ないため、環境負荷が低い点も利点です。

現在では、化学工業、医学、薬学、環境保護など多岐にわたる分野で広く利用されているほか、食品中の残留農薬分析や水質分析など、各種公的規格の試験法にも採用されています。

1-1. 固相抽出と液液抽出の違い

固相抽出と液液抽出は、化学分析の前処理技術として目的物質を抽出するために使用されますが、いくつかの違いがあります。

液液抽出は2種類の溶媒を使用し、相互に混ざり合わない特性を利用して物質を分離することが可能です。しかし、この方法はエマルジョンの形成や水溶性の高い物質の抽出が難しいという問題があります。また、大量の有機溶媒を必要とし、操作が煩雑で環境負荷も高いです。

一方、固相抽出はミニカラムに詰められた固体吸着材を用いて目的物質を分離する方法で、水溶性の物質にも適用でき、使用する溶媒の量が少ないため環境に優しいです。操作もスムーズに行いやすく、自動化も容易であるため、環境水や飲料水の分析、食品分析の前処理など、広い範囲での応用が可能です。

1-2. 固相抽出の利点

固相抽出は、複雑なサンプルマトリックスから分析種を抽出する方法で、特に質量分析計(MS)のような高感度機器を使用する場合の前処理に適しています。

固相抽出の手法の利点は、サンプル中の分析妨害成分を除去し、イオン化過程でのサプレッションやエンハンスメントを最小限に抑えることにあります。これにより、化合物の正確なイオン化が可能となり、より信頼性の高い分析結果を得ることが可能です。

さらに、固相抽出は複雑なマトリックス中で化合物を属性の違いによって分画でき、例えば極性が異なる化合物を分けることができます。分析対象の成分を各々に適した条件で、別々に分析することが可能となり、分析効率の向上が図れます。

また、微量成分の濃縮も可能で、極めて低い濃度の化合物でも検出しやすいため、環境サンプルや生体試料などの分析にも有効です。

1-3. 固相分離剤の種類

固相抽出で使用される固相分離剤は、初期の頃から多様化し、現在では幅広い選択肢が提供されています。

最も一般的な分離剤であるシリカゲルは、機械的な強度と耐圧性に優れているため、広範囲の用途に適しているのが特徴です。ただし、強酸性や強塩基性の環境下では、官能基の加水分解やシリカゲル自体の溶解が起こる可能性があるため、使用できるpH範囲に制限があります。

ポリマー系の分離剤も一般的で、スチレンジビニルベンゼン系(SDB)、ジビニルベンゼン系(DVB)、メタクリレートなどがあります。その他の分離材としては、アルミナ、ケイ酸マグネシウム、グラファイトカーボン、活性炭などがあり、化学特性や分析目的に基づいて選ばれます。

2. 固相に分離目的物質が保持される原理

固相抽出では、さまざまな物理的・化学的相互作用を利用して特定の成分を選択的に分離し、保持します。ここでは、その基本的な保持メカニズムを3つの異なる原理に分けて解説します。

2-1. 疎水性相互作用

疎水性相互作用に基づく固相抽出は、特定の固相材料が試料中の疎水性成分を選択的に保持する原理に基づいた作用です。逆相系では、固相が疎水性であり試料溶媒が極性を持つため、極性の溶媒中に溶解した疎水性の成分が固相に吸着されます。

シリカベースの逆相固相材料に、疎水性の官能基(例えばC8、C18、ベンゼン環など)が結合されています。これらの官能基は、試料中の疎水性物質との間に疎水性相互作用を形成し、これにより水系のマトリックスから該当物質が保持されます。炭素数が多い固相材料ほど疎水性は増大し、保持力もより強いです。

2-2. 極性相互作用

極性相互作用を基にした固相抽出では、固定相が極性官能基(例えばOH基)を持つか、または固相自体が極性を有することにより、試料中の極性成分を保持します。

「順相系」として知られており、主に疎水性の溶媒に溶解した試料から極性成分を分離するのに使用されます。固定相と極性成分との間で水素結合などの極性相互作用が生じるため、この相互作用により極性物質が固定相に吸着される仕組みです。保持された成分は、極性溶媒を固相に通すことで相互作用が弱まり、目的物質の溶出・回収が可能です。

順相系で利用される固定相には、シリカ、ダイオール、アルミナなどがあります。

2-3. イオン交換

イオン交換は、固相抽出において帯電した目的物質を特定のイオン交換基を持つ固相に保持させる原理に基づいています。固相に結合されているイオン性官能基が試料中の対応する帯電した成分(イオン)と強いイオン結合を形成し、特定のイオンを選択的に捕捉します。

  • 陽イオン交換(カチオン交換):固相側が-イオンで、+イオンが保持される
  • 陰イオン交換(アニオン交換):固相側が+イオンで、-イオンが保持される

イオン交換相互作用は、マトリックス中に他の成分や溶剤が存在しても、目的のイオンが解離している限り、イオン交換相互作用によって保持されるのが利点です。(ただし、マトリックス中の塩濃度が高い場合は、保持効果が減少する可能性があります。)

3. 固相抽出の手順

固相抽出は、特定の化合物を液体サンプルから選択的に分離、濃縮するために、【コンディショニング、試料添加、洗浄、溶出】の主に4つのステップで実施します。

また、固相抽出には大きく分けて通過型・保持型の2つの手法があります。ここでは、通過型の手法を中心に、各手順について詳しく解説します。

3-1. コンディショニング

コンディショニングは、固相材料を活性化し、効果的な吸着を促進するための準備段階です。

【主なポイント】

・固相抽出カラムに有機溶媒(メタノール、アセトニトリルなど)を固相充填剤体積の5倍程度の量を流す
・次に試料溶媒と同じ組成の溶媒に置換する(例: 試料が水系の場合は水で置換)
・溶媒が混ざりにくい場合は、両溶媒に混合する溶媒で段階的に置換する
・コンディショニング後はカラム内を乾燥させないよう注意する

3-2. 試料添加

試料添加では、目的成分の溶出力が低い溶媒に試料を溶解し、固相カラムに添加します。

【主なポイント】

・目的物質の溶出力が低い溶媒に試料を溶解する(例: 逆相系なら水、順相系ならヘキサン、イオン交換系なら低塩濃度緩衝液)
・通過型の場合、目的物質は保持されないので、カラムから流出する液をすべて回収する(保持型の場合は、回収は不要)

3-3. 洗浄

主に保持型のステップで、追加の洗浄液を流して、残留した不要な夾雑物を除去します。

【主なポイント】

・通過型の場合、目的物質は既に流出しているので影響はありません
・保持型の場合は、夾雑物は溶出させ、目的物質は溶出させない溶媒を利用し、固相中の夾雑物を洗い流すことが必要です

3-4. 溶出

最後に、固相に保持された目的の化合物を特定の溶媒で溶出します。

【主なポイント】

・試料溶媒と同じ組成の溶媒を充填剤体積以上流す
・試料添加で回収した液と合わせて、これが分析用の試料となる

まとめ

固相抽出は、サンプル前処理の一手法です。

固相抽出で目的物質のクリーンアップを行う際には、通過型と保持型の2つの手法があります。通過型では、目的物質を固相に保持せずに流れさせ、夾雑物だけを固相で捕捉します。目的物質の濃縮は行えませんが、操作が比較的簡単であり、夾雑物の除去に特化しています。

一方、保持型では、目的物質を固相に保持し、非目的物質のみを洗浄して除去した後に、目的物質を溶出します。目的物質の濃縮が可能です。

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