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ラマン分光光度計とは?原理や活用方法を分かりやすく解説
ラマン分光光度計とは、「ラマン分光法」を用いて物質の分子構造や物性を評価する分光装置です。試料・サンプルを基本的に前処理なく非破壊で測定できることが特徴で、化学分野、医療分野、バイオ分野など幅広い業界で応用されています。
ラマン分光光度計についての理解を深めるためには、ラマンスペクトルの概要や赤外分光法との違いをおさえておくことが大切です。また、ラマン分光光度計を適切に活用するにあたっては、具体的な活用方法の理解も欠かせません。
そこで今回は、ラマン分光光度計の概要から装置構成、使用メリット、さらにシーン別の活用方法まで詳しく説明します。
目次 1. ラマン分光光度計とは? 1-1. ラマンスペクトルとは? 1-2. ラマン分光法と赤外分光法の違いは? 2. ラマン分光光度計の構成 3. ラマン分光光度計を使用するメリット 4. ラマン分光光度計の活用方法 4-1. 電極表面の評価 4-2. 半導体の評価 4-3. 錠剤の評価 まとめ |
1. ラマン分光光度計とは?
ラマン分光光度計とは、「ラマン散乱」と呼ばれる光の散乱現象を利用して、試料の分子構造同定や物性を評価する分光装置です。
サンプルに特定の波長のレーザー光を照射すると、分子の振動や回転によって光が散乱するラマン散乱が起こり、照射光とは異なる波長の「ラマン散乱光」が生み出されます。発生したラマン散乱強度や波長変化を検出器で測定することによって、物質の分子構造や成分、化学結合の状態に関するさまざまな情報を取得できます。
1-1. ラマンスペクトルとは?
ラマン分光光度計で得られたラマン散乱光を波長ごとに測定・解析した結果は、ラマンスペクトルとして表示されます。
ラマンスペクトルとは、ラマン散乱光の波長ごとの強度を示したグラフです。試料の分子振動にもとづいてピーク位置やピークシフト、スペクトル波形、半値幅などの情報を視覚化できます。
得られる情報 | |
ピーク位置 | 分子内における化学結合の情報 |
ピークシフト | 応力やひずみに関する情報 |
スペクトル波形 | 分子構造の構造や結晶構造の違い |
半値幅 | 結晶性・非結晶性の違い |
いわばラマンスペクトルは「物質固有の化学指紋」とも言え、分子や分子結合の識別に役立ちます。ラマンスペクトルを比較・解析することで、異なる物質の識別や成分の分布解析、結晶構造の評価にも応用できます。
1-2. ラマン分光法と赤外分光法の違いは?
ラマン分光光度計は、分子の振動エネルギーによって分析するラマン分光法を利用した分析機器であることを説明しました。そして、ラマン分光法と同様に分子の振動エネルギーを解析・測定する方法には「赤外分光法」もあります。
赤外分光法とは、分析対象の試料に赤外線(IR)を照射し、吸収された光をもとに分子構造を解析する分光方法です。分子が赤外領域の光を吸収する際の振動を測定することで、分子内における特定の結合状態の変化を感知します。
ラマン分光法と赤外分光法の大きな違いは、解析の対象です。C-C結合のような非極性結合の振動に敏感なラマン分光法は、光の散乱によってラマンスペクトルを観測します。一方で、C=O基やOH基といった極性官能基に敏感な赤外分光法では、赤外光の吸収によって赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を観測します。
ラマン分光法と赤外分光法は、相補的な関係にあります。2つの分光測定法を併用することで両者の強みを生かしたより広範囲かつ詳細な分析が可能となり、物質の構造・性質に関する高精度な情報を得られます。
2. ラマン分光光度計の構成
ラマン分光光度計を構成する要素は、大きく「入射光源」「分光器」「検出器」の3つに分けられます。各構造の概要や役割は、下記の通りです。
●入射光源
ラマン分光に使用される光源です。高い波長安定性と狭い波長幅をもつ光源が用いられます。
●分光器
ラマン散乱光を分光するための部品です。一般的には回折格子(グレーティング)を使用したポリクロメータが採用されます。
●検出器
ラマン散乱光の強度や波長を測定するための装置です。ラマン散乱光は微弱であることから、感度の高い検出器が求められます。また、分光された複数の波長の光を同時に検出できるセンサーを測定波長範囲・波数範囲に合わせて選択することも重要です。一般的には、「CCD」とも呼ばれるマルチチャンネル検出器が採用されます。
入射光源から照射されたレーザー光が測定対象試料に照射されると、試料中の分子でラマン散乱が発生します。散乱されたラマン光は分光器を通過した後、回折格子によって波長ごとに分けられます。分光された光は検出器に到達し、強度や波長が測定され、最終的にラマンスペクトルとして解析されるという流れです。
3. ラマン分光光度計を使用するメリット
物質の分子構造や物性の評価にラマン分光光度計を使用することには、下記のようなメリットがあります。
●非接触・非破壊で解析できる
ラマン分光光度計は、基本的に試料に直接触れることなく、かつ物理的な損傷を与えずに分子構造や物性を測定できます。そのため、貴重な試料や壊れやすい・変化しやすい物質でも安心して使用できるほか、一度解析した試料でも当初の状態を維持したまま何度でも解析することが可能です。
●有機物・無機物に関係なく解析できる
金属を除くほぼすべての物質は、有機物・無機物に関係なくラマンスペクトルをもっています。そのため、ラマン測定・ラマン分析では未知のサンプルを含むさまざまな物質を同一手法で解析できます。金属化合物も解析でき、腐食の進行の把握も可能です。このように、ラマン分光光度計はさまざまな分野で幅広く活用できる汎用性の高い分析法と言えます。
●局所的な解析ができる
近年では、ラマン分光装置と顕微鏡を組み合わせた「顕微ラマン分光光度計」も注目されつつあります。顕微ラマン分光光度計であればレーザー光を約1µmに絞って照射でき、微小な領域をターゲットにした局所的な解析が可能です。高い分解能を要する研究や品質管理においては、特に有用となるでしょう。
4. ラマン分光光度計の活用方法
前述の通り、ラマン分光光度計は化学分野、医療分野、バイオ分野など多岐にわたる領域で活用されています。いずれの領域においても「物質の分子構造や物性の評価」は共通の目的となりますが、評価内容や求められる情報は分野によって異なります。
最後に、ラマン分光光度計の具体的な活用方法を分野ごとに分かりやすく説明します。
4-1. 電極表面の評価
電池分野では、ラマン分光光度計が電極表面の評価、主に充放電サイクル後の劣化の評価に役立っています。
リチウムイオン電池の正極材料に用いられるコバルト酸リチウムは、電池の劣化によって酸化コバルトに変化することが特徴です。充放電サイクルテスト後にリチウムイオン電池から正極を取り出し、試料表面のラマン分光測定を行うことで、電極表面の変化をラマンスペクトルの変化として観測できます。
4-2. 半導体の評価
半導体分野においてラマン分光光度計は、半導体デバイスなどに用いられる単結晶シリコンの応力評価に役立ちます。
シリコンの結晶に作用する応力は、ラマン分光法で観察される「フォノンバンド」のシフトとして現れることが分かっています。フォノンバンドとは、「フォノン」と呼ばれる量子化された格子振動の振動モードのことで、物質内の原子が振動する際に生じるラマン散乱のピークシフトとして観察されます。
このシフト量を分析することで、半導体デバイスに使用される単結晶シリコンの応力状態を定量的に評価できます。
4-3. 錠剤の評価
医療分野においてラマン分光光度計は、医薬品錠剤のラマンイメージングに役立ちます。
ラマンイメージングとは、ラマン分光法を用いて試料表面を高解像度で観察し、異なる化学成分の分布を可視化する技術です。これにより、錠剤中の各成分がどのように分布しているかを詳細に把握・評価できます。
また、医薬品錠剤の活性成分には異なる結晶形をもつケースもあります。ラマン分光スペクトルを用いることで複数の活性成分の違いを識別でき、結果として製造過程の品質管理や最適化を図れるようになります。
まとめ
ラマン分光光度計とは、ラマン散乱を利用して試料の分子構造同定や物性を評価する測定装置です。ラマン分光光度計で得られるラマンスペクトルからはピーク位置やピークシフト、スペクトル波形、半値幅などの情報を取得でき、分子や分詞結合の識別のほか、異なる物質の識別、成分の分布解析などにも応用できます。
非接触・非破壊解析や局所的な解析が可能なラマン分光光度計は、その汎用性の高さが評価されており、幅広い業界・分野での課題解決に貢献しています。
アズサイエンス株式会社では、ラマン分光光度計をはじめとしたさまざまな分光器を取り扱っております。研究開発や成分分析に分光器を利用したいという方や各種分光器の製品情報について知りたいという方は、ぜひ一度アズサイエンス株式会社にお問い合わせください。
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