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ダイナミック光散乱光度計とは?原理と測定が可能なものを解説
ナノテクノロジーが関連する分野では、粒子・分子のサイズや動的特性を分析するために「ダイナミック光散乱光度計」という装置が広く活用されています。
ダイナミック光散乱光度計はナノスケールの粒径を迅速に測定でき、プロセスの最適化・効率化のほか、精度向上にも大きく貢献することが特徴です。
そこで今回は、ダイナミック光散乱光度計の基本情報や原理、さらにダイナミック光散乱光度計で測定できるものについて詳しく解説します。
目次 1. ダイナミック光散乱光度計とは? 2. ダイナミック光散乱光度計の原理 2-1. 動的光散乱法 2‐2. 静的光散乱法 3. ダイナミック光散乱光度計で測定できるもの 3-1. 粒子径 3‐2. 粒子径分布 3‐3. 絶対分子量 3‐4. 高分子溶液の特性 まとめ |
1. ダイナミック光散乱光度計とは?
ダイナミック光散乱光度計とは、溶液中の微小な粒子・分子のサイズや動的特性などを測定するための分析装置です。製薬業界や化学業界、さらに環境科学・バイオテクノロジー業界など、幅広い領域・分野で活用されています。
ダイナミック光散乱光度計は英語で「Dynamic Light Scattering」と呼び、頭文字をとって「DLS」とも省略されます。また、日本語ではダイナミック光散乱光度計のほか「動的光散乱光度計」とも呼ばれており、動的光散乱法そのものをDLSやDLS法と呼ぶこともあります。
2. ダイナミック光散乱光度計の原理
一部のダイナミック光散乱光度計は、DLS法と呼ばれる動的光散乱法による測定のほか、SLS法と呼ばれる静的光散乱法での測定も可能です。
動的光散乱法と静的光散乱法はいずれも光散乱現象を利用する点が共通しているものの、具体的な測定原理には違いがあるため用途に応じた使い分けが重要です。適切なダイナミック光散乱光度計を選定するためにも、動的光散乱法と静的光散乱法の原理と仕組みを理解しておきましょう。
2-1. 動的光散乱法
動的光散乱法は、溶液中におけるナノスケールの粒子・分子の動きに基づいて運動速度(光散乱の揺らぎ)を測定し、その計測データから各種数値の計算を行って粒径を算出・分析する手法です。
粒子が液体中に分散しているときは、あらゆる方向に無作為に拡散されることが特徴となっています。拡散された粒子が溶媒分子と衝突することで、一定量のエネルギーが伝達され、粒子の拡散運動(ブラウン運動)が誘発されます。
拡散運動においては、粒子が小さいほど速度が上がることが特徴です。そして、速度が上がるほど光散乱の揺らぎも大きくなります。
動的光散乱法では、溶液中に分散する粒子にレーザー光を照射し、光子検出器で粒子の拡散速度・拡散運動による光散乱の揺らぎを測定することによって、流体力学的直径を算出できるという仕組みとなっています。
2‐2. 静的光散乱法
静的光散乱法は、散乱光強度そのものを計測し、主に絶対分子量や二次ビリアル係数などの特性を求める手法です。
粒子・分子に電磁波が当たると、それぞれの電子がエネルギーを吸収して振動し始めます。振動中の電子からは電磁波が散乱光としてあらゆる方向に放射され、光散乱現象が発生します。濃度・角度を変えながら散乱光(放射電磁波)の強度を測定することで、溶液中の分子量を測定できる仕組みとなっています。
なお、分子サイズが大きくなるほど散乱光の量は増え、散乱強度と分子量は比例することが特徴です。
SLS機能が組み込まれたダイナミック光散乱光度計では、散乱光検出モード・分子量解析方法を機器側で切り替えることによって、静的光散乱法での測定が可能となります。
3. ダイナミック光散乱光度計で測定できるもの
ダイナミック光散乱光度計で測定できるものは、多岐にわたります。
最後に、ダイナミック光散乱光度計で測定できるものを、用途も含めて分かりやすく説明します。ダイナミック光散乱光度計の導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
3-1. 粒子径
粒子径とは、粒子の大きさを「長さ」という便宜的な値で表した一次元の数値です。動的光散乱法を用いてダイナミック光散乱光度計で粒子径を測定することによって、製品の機能性や安定性を管理でき、品質確保にもつながります。
そもそも粒子は、立方体や球形など規則的な形状をしているものもあれば、不規則な形状をしているものも存在します。規則的な形状の粒子は直径や辺の長さで粒子径を定義できる一方で、不規則な形状の粒子は複数の値で定義する必要があります。
粒子径の定義において代表的な定義方法には、下記が挙げられます。
基準 | 粒子径の定義 |
---|---|
投影面積基準 | 粒子の投影面積と同等の面積をもつ円の直径 |
体積基準 | 粒子の体積と同等の体積をもつ球の直径 |
沈降速度基準 | 粒子と同等の沈降速度をもつ球の直径 |
ふるい基準 | 粒子と同等のふるいのメッシュ開口部を通過する球の直径 |
これらの基準で定義する粒子径はあくまでも仮定であり、完全に正確とは言えません。しかし、ほとんどの工業プロセスで用いられる基本的な定義となっています。
3‐2. 粒子径分布
粒子径分布とは、サンプル・試料中に含まれる集団粒子がそれぞれ異なるサイズをもっている際に、サイズのばらつき具合を視覚化したものです。
粒子サイズの分布は、縦軸を粒子の数または割合、横軸を粒子径とした「ヒストグラム」を用いて表現されることが一般的ですが、小さな粒子から大きな粒子までの幅広い範囲を見やすく表示するために横軸を対象軸とするケースもあります。
また、粒子サイズの代表的な指標としては主に「平均径」や「モード径」が用いられます。平均径は粒子径の平均値で、粒子集団の大きさの中心的な傾向を示します。そして、モード径は最も頻繁に出現する粒子径であり、サイズのピークを表します。これらの代表径を用いると粒度分布を簡略に表現でき、粒子サイズのばらつきを効率的に把握できます。
動的光散乱法を用いたより正確な粒径分布測定を行うことで、製品の均一性や安定性が把握でき、製造工程の最適化にも役立ちます。特に、分布の広がりが大きければ物理的な特性も変動しやすくなるため、分布を管理することで品質を一定に保つことが可能です。
3‐3. 絶対分子量
絶対分子量とは、溶液中の分子の質量そのものを指します。絶対分子量を測定することで、分子全般の構造解析に役立つほか、分子量に基づく物質の機能性や反応特性の予測による製品設計・加工プロセスの適切な調整と製品品質の向上も期待できます。
ダイナミック光散乱光度計で静的光散乱法を用いて分子の慣性半径 (Rg) を測定し、分子がどのように光を散乱するかを解析することで、直接的に分子量を算出することが可能です。
また、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC) との組み合わせによって、サイズ分布と分子量分布の詳細を得られ、より精密な分子量評価が可能となります。
3‐4. 高分子溶液の特性
高分子溶液の特性とは、粘度や濃度など、溶液中における高分子の挙動や物理的な性質を示すものです。ダイナミック光散乱光度計を用いることで、特に分子が形成するサイズや形状、溶媒との相互作用に関する詳細分析が可能となります。
ダイナミック光散乱光度計を使用すれば、高分子の質量や分子量、さらに濃度依存性といった特性を詳細に調べることができます。高分子のモル濃度と質量をもとに測定し、分子間の自己相関関数や溶媒効果を評価すれば、溶液の挙動を予測することも可能です。
高分子溶液の特性を測定することによって、材料が特定の条件下でどのような性能を発揮するかを予測しやすくなります。結果として、製品の安定性や機能性を向上させられるだけでなく、工程や配合の最適化による製造コストの削減にもつながるでしょう。
まとめ
ダイナミック光散乱光度計とは、溶液中の微粒子・分子のサイズや動的特性などを迅速に測定するための分析装置です。分析プロセスの最適化・効率化のほか、精度向上も期待できることから、ナノテクノロジーが関連する業界・分野において広く活用されています。
ダイナミック光散乱光度計によっては、DLS法と呼ばれる動的光散乱法による粒子径測定のほか、SLS法と呼ばれる静的光散乱法での分子量測定が可能な機能も備わっています。粒子径や粒子径分布のほか、絶対分子量や高分子溶液の特性も測定したいという場合は、SLS機能の備わったダイナミック光散乱光度計を導入すると良いでしょう。
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