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デジタルPCR装置とは?原理やメリット・用途を分かりやすく解説
デジタルPCR装置とは、従来のPCR技術を大幅に進化させたもので、遺伝子の絶対定量が可能な最先端の検査装置です。各DNA分子を個別に分析し、それぞれのウェルでPCR反応を実施することにより、非常に低い濃度の遺伝子でも高い精度で定量が可能です。
技術は医療診断から環境モニタリング、重要な科学研究に至るまで、デジタルPCRは多岐にわたる分野でその能力を発揮し、既存の技術では捉えられない微細なデータまで明らかにします。
この記事では、デジタルPCRの基本原理、主なメリット、そして具体的な用途について詳しく解説します。
目次 1. デジタルPCR装置の基礎知識 1-1. そもそもPCRとは 1-2. デジタルPCR装置の原理 2. デジタルPCR装置と従来のPCR装置の違い 2-1. 従来のPCR装置 2-2. リアルタイムPCR装置 3. デジタルPCR装置のメリット 3-1. デジタルPCR装置の主な使用目的 まとめ |
1. デジタルPCR装置の基礎知識
デジタルPCRとは、リアルタイムPCRよりも高精度の定量が実現できる技術です。解析したいDNAサンプルを1ウェルにつき0〜1分子になるように分配し、ウェルごとの増幅シグナルを検出します。
リアルタイムPCRで検出しきれない変異が検出可能なほか、ターゲット遺伝子の発現量を絶対的に測定できるのが特徴です。
1-1. そもそもPCRとは
そもそもPCRとは、Polymerase Chain Reactionの頭文字であり、「ポリメラーゼ連鎖反応」という意味です。PCR検査やPCR法などと呼ばれ、生物の遺伝情報を持つ特定のDNAの配列を10億倍以上に増幅させる検査方法を指します。
PCRの遺伝子増幅技術は、DNA配列の種特異的な側面を利用して、少しの痕跡から生物種を特定する方法の一種です。動植物や菌・ウイルスといった生き物は、ハシゴのような構造のDNAを持ちます。DNAは生物ごとに特有の配列が存在するため、サンプルの配列を調べることで生物種が特定できる仕組みです。
PCRの具体的な特徴は、以下の通りです。
・約30億対にもなるヒトゲノムのように、長大なDNA分子の一部や特定のDNA断片 のみを選択的に増幅できる ・極めて少ない量の試料から、検出目的を達成できる ・単純なプロセスで検査できるため、増幅や検出にかかる時間が短い ・全自動装置などを使うことで、より簡単に検出目的を達成できる |
例えば、PCRでは酵素や試薬といった薬品を使うことで、極めて少ない量のウイルス遺伝子の一部を最大で数十億倍にまで複製できます。PCRの遺伝子増幅技術を利用すれば、通常の検査ではすり抜けてしまうほどの微小なウイルスも検出できるのが利点です。
1-2. デジタルPCR装置の原理
デジタルPCR装置では、DNAサンプル内の個別分子を直接カウントすることで、より正確な定量を実現します。
デジタルPCR装置には、大きく分けて、ドロップレット方式とウェルチップ方式があります。ウェルチップ方式では、専用プレート上の多数のウェルにDNAサンプルを分配し、それぞれのウェルについて同時進行でエンドポイントPCR法を行います。
なお、すべてのウェル区画内にターゲット分子が存在するわけではありません。1つ以上のターゲット分子を含むウェルと、ターゲット分子を含まないウェルがあるため、PCR終了後にはウェルごとにPCR増幅の有無について解析する必要があります。ターゲット分子は、配列特異的なDNA検出子やインターカレート色素の有無を調べることで検出可能です。
解析の結果、増幅があったウェルは標的分子が存在するポジティブ反応、増殖が見られなかったウェルは標的分子が存在しないネガティブ反応とカウントします。
2. デジタルPCR装置と従来のPCR装置の違い
デジタルPCR装置と従来のPCR装置には大きな違いがあります。下表を用いてそれぞれの違いを解説するので、デジタルPCR装置への理解を深めるための参考にしてください。
デジタルPCR装置 | 従来のPCR装置 | リアルタイムPCR装置 | |
測定方法 | 限界希釈したサンプルDNAをウェル内に分配してPCRを実施し、DNAが増幅したウェルをカウントして定量を行う | 熱サイクルの反復によりPCRを促進し、DNAを増幅させる | PCRによるDNA増幅率をリアルタイムでモニタリングし、定量を行う |
定量性 | ◎ | △ | ◯ |
精度 | ◎ | △ | ◯ |
操作性 | ◎ | △ | ◯ |
特徴 | ・絶対定量を行うシステムであるため、リファレンスサンプルや標準曲線が必要ない ・阻害物質への耐性が高く、複雑な混合物を解析できる ・少ない増幅量の変化も検出可能 | ・PCR後の処理工程が発生しない ・検出のダイナミックレンジが広い ・濃度差2倍程度まで検出可能 ・蛍光プローブの切断することで、アンプリコンの増幅量を安定して測定できる | ・作りがシンプルで、比較的簡単に使える ・サーマルサイクラーと非標識試薬で利用できる ・特別な訓練をしなくても使えるが、検出精度や感度などが低い |
用途 | ・ウイルスの絶対定量 ・核酸標準品の絶対定量 ・遺伝子発現定量 ・発生頻度が少ない変異の検出など | ・遺伝子発現定量 ・品質管理及びアッセイの検証 ・マイクロアレイの検出 ・病原体の検出など | シーケンシング、ジェノタイピング、クローニングなどを目的とするDNA増幅 |
従来のPCR用途は限定的でしたが、リアルタイムPCRが登場し、DNAやRNAのPCRバースの定量化についてのアプローチ方法が大きく変化しました。
デジタルPCR装置は、新しい手法で核酸の検出や定量を行います。各サンプルにおける核酸初期量を測定する際に、増幅サイクル数に依存せずに絶対定量やレアな検出を行う点で、リアルタイムPCRと異なります。
2-1. 従来のPCR装置
従来のPCR装置では、PCR増幅の産物と既知濃度のスタンダードをゲル上で比較することで、半定量的な結果が測定可能です。実験条件に合わせた設定温度で加熱と急速冷却を繰り返し、DNAを増幅させて測定を行います。
従来のPCR装置は自動化に非対応であり、PCR前後の処理が発生するなどのデメリットがあります。ただし、デジタルPCR装置やリアルタイムPCR装置よりも価格が安く、低コストで導入可能です。
2-2. リアルタイムPCR装置
リアルタイムPCR装置は、DNA増幅過程をリアルタイムで測定可能であり、遺伝子発現解析などの定量解析を得意とする装置です。PCR後の処理工程が必要ないため、より効率よく検出データが得られるほか、異物混入や試料の漏洩といった実験汚染リスクが低いなどの長所を持ちます。
リアルタイムPCR装置は蛍光色素を励起する光源や蛍光検出機器、PCR装置の機能を兼ね備えた装置であり、増幅物質を蛍光物質の測定によって定量可能です。
3. デジタルPCR装置のメリット
デジタルPCR装置のメリットは、従来のPCR装置やリアルタイムPCR装置よりも、はるかに高精度・高感度な定量が実現できる点です。検量線を使わずに、サンプル中の標的となるDNAコピー数を絶対定量で測定できるデジタルPCR装置は、第3世代のPCRと呼ばれています。
さらに、1.1倍の希釈系列が絶対定量できるため、従来は検出困難だった遺伝子の微量な変化がモニタリングできる点もメリットです。さらに、2種類の色素を同時に検出・定量することで、変異比率なども算出できるようになりました。
3-1. デジタルPCR装置の主な使用目的
デジタルPCR技術を使えば、珍しい変異の検出や遺伝子発現の絶対定量、核酸スタンダードの作製といったさまざまなアプリケーションに対応できます。デジタルPCR装置の主な使用目的の具体例は、以下の通りです。
・遺伝子治療におけるウイルス感染価の正確な測定 AVVベクターや細菌感染、宿主細胞の残留DNAを正確に定量できる ・ウイルス量の定量 バクテリアやウイルス量の絶対的な値を定量 ・コピー数多型(CNV) コピー数のほんのわずかな違いを高精度で検出・定量 ・次世代シーケンサ(NGS)のライブラリー定量 リファレンスサンプル不要でNGSライブラリーの絶対定量やシーケンス後の結果を検証できる ・食品由来の病原体検出 食品安全のための微生物病原体の存在確認と定量化が可能 ・変異検出 がん研究や臨床サンプルなどの極少数のサンプルを用いた珍しいタイプの変異を検出・定量できる |
まとめ
デジタルPCR装置は、卓越した感度と精度により、科学研究および臨床診断の領域で革命的な進展をもたらしています。特に、低頻度の遺伝子変異を検出したり、微量なウイルスの定量を行う場合にその真価を発揮します。これにより、がんの早期発見や遺伝病の診断、さらには環境中の微生物のモニタリングなど、幅広い応用が可能になっています。
また、デジタルPCR装置は従来の方法では困難だった稀少なサンプルからの正確なデータ取得を実現し、新しい治療法や診断法の開発に貢献しています。未来に向けて技術のさらなる最適化と応用拡大が期待されており、多くの科学的、医学的課題への解決策として重要な役割を果たすことでしょう。
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