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ウエスタンブロッティングとは?原理や用途・作業時のポイント

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生命科学分野の研究や医療研究において、特定のタンパク質の存在や量を調べることは欠かせない作業です。その中で広く利用されている技術の1つが、ウエスタンブロッティング(Western blotting)です。ウエスタンブロッティングは、タンパク質を分子量ごとに分離し、特異的な抗体を用いて検出する方法です。

この記事では、ウエスタンブロッティングの基本原理や用途、具体的な作業の流れ、適切な試薬・機器の選び方などについて紹介します。

目次

1. 【基礎】ウエスタンブロッティングとは?
1-1. ウエスタンブロッティングの原理と用途

2. ウエスタンブロッティング作業の流れ

3. ウエスタンブロッティング作業のポイント
3-1. ブロッティング装置の選び方
3-2. メンブレンの選び方
3-3. 転写バッファーの種類
3-4. ブロッキング溶液の種類
3-5. バンドの検出方法

まとめ

1. 【基礎】ウエスタンブロッティングとは?

ウエスタンブロッティング(Western blotting、WB)とは、サンプル中の特定タンパク質を検出するための実験手法です。通常、タンパク質混合物をSDS-PAGEで分離し、メンブレン(膜)に転写した後、抗体を用いて目的のタンパク質を検出します。

1-1. ウエスタンブロッティングの原理と用途

ウエスタンブロッティングの原理は、SDS-PAGEによる電気泳動の高い分離能と、抗原抗体反応の高い特異性を組み合わせてタンパク質を検出することです。目的タンパク質が存在するかどうかだけでなく、リン酸化などの修飾状態も調べられます。
例えば、シグナル伝達経路の解析でタンパク質のリン酸化レベルを確認したり、病理分野で異常なプリオンタンパク質を検出する検査(狂牛病検査など)にも利用したりします。生命科学研究の幅広い分野で、タンパク質の発現確認や機能解析などの用途に欠かせない基本手法です。

2. ウエスタンブロッティング作業の流れ

ウエスタンブロッティング作業の流れは、主に以下の通りです。

タンパク質の抽出・精製
SDS-PAGEによる分離
転写(ブロッティング)
ブロッキング
一次抗体反応
二次抗体反応
バンドの検出
データ解析

まずタンパク質試料をSDS-PAGEでサイズ別に分離し、ゲルからニトロセルロース膜(NC膜)やPVDF膜などのメンブレンへタンパク質を転写します。次に、膜上の非特異的結合部位をブロッキング処理で塞いだ後、一次抗体と酵素標識二次抗体を順次反応させます。最後に基質溶液を加えて酵素反応によるシグナルを発生させ、目的タンパク質のバンドを検出します。

3. ウエスタンブロッティング作業のポイント

ウエスタンブロットの結果を左右する要因として、使用する装置や試薬の選択、操作上の工夫などが挙げられます。以下では、実験目的に応じた装置の選び方から検出法の工夫まで、押さえておきたいポイントを紹介します。

3-1. ブロッティング装置の選び方

ウエスタンブロッティング用の転写装置(ブロッティング装置)には大きく分けて「タンク(湿式)方式」と「セミドライ(半乾式)方式」があります。

セミドライ式は、必要なバッファー量が少なく短時間で転写できるため、現在最も一般的に使用されています。タンク式は、ゲルとメンブレンをバッファー槽に浸して転写する古典的な方法です。一度に複数ゲルの転写を行いたい場合や大型タンパク質の転写に用いられることがあります。また、両者の中間にあたる「セミウェット式」と呼ばれる方式もあります。

最近では、半乾式の高性能装置や転写時間を数分程度に短縮できる迅速転写システムも登場しています。

3-2. メンブレンの選び方

転写に使用するメンブレンとしては、一般的にPVDF膜かニトロセルロース膜が使用されます。

PVDF膜はタンパク質の結合能が高く物理的にも丈夫なため、高感度検出やリプロービング(膜を再利用して別の抗体で再検出)を行う場合に適しています。一方で、ニトロセルロース膜は安価で事前のメタノール処理が不要であり、非特異的な背景シグナルが少ないのが利点です。ただし、ニトロセルロース膜は脆弱なので、扱いに注意が必要です。

したがって、実験の目的や使用条件に応じて適切なメンブレンを選択しましょう。なお、ナイロン膜も存在しますが、バックグラウンドが高くタンパク質染色も困難なため、ウエスタンブロットではあまり用いられません。

3-3. 転写バッファーの種類

ウエスタンブロットでタンパク質を膜に転写する際には、使用する転写バッファーの種類も重要です。転写バッファーには、一般的な「連続バッファー」とセミドライ転写で利用される「不連続バッファー」の2種類の方式があります。

標準的な連続バッファーはTowbinバッファー(Tris-Glycine系)と呼ばれるものです。25 mM Tris、192 mMグリシン、20%メタノールからなります。メタノールを加えることで膜へのタンパク質結合を促進し、濃度はPVDF膜で15%程度、ニトロセルロース膜で20%程度が推奨されています。高分子量タンパク質を効率よく転写したい場合は、転写バッファーに0.01~0.1%のSDSを添加すると、ゲルからの溶出を促進することが可能です。

一方で、不連続バッファーはバッファーに濃度勾配をつけたシステムで、セミドライ法で転写効率を上げるために用いられます。タンパク質のサイズや性質に応じてバッファー条件を調整することで、転写効率の向上やターゲットタンパク質の保持に役立ちます。

3-4. ブロッキング溶液の種類

抗体反応の前処理であるブロッキングには、さまざまなタンパク質溶液が用いられます。代表的なブロッキング溶液として、1~5%スキムミルク(脱脂粉乳)、または1~3%BSA(ウシ血清アルブミン)を含む緩衝液(PBS-Tなど)がよく使用されます。

スキムミルクは、ブロッキング効果が強く汎用的ですが、特異的な抗原抗体反応まで抑制してしまうことがある点に注意が必要です。また、スキムミルク中に含まれるカゼインはリン酸化タンパク質に対する抗体と反応する恐れがあるため、リン酸化シグナルを検出する際には適しません。

BSA溶液は比較的ニュートラルなブロッキング剤で、リン酸化タンパク質検出など特異性が重要な場合に用いられることが多いです。その他、ゼラチンや血清由来のブロッキング剤、市販の合成ブロッキング試薬なども利用できます。実験の目的や一次抗体の特性に応じて最適なブロッキング条件を選択しましょう。

3-5. バンドの検出方法

転写と抗体反応の後、膜上のターゲットタンパク質は何らかの方法で「バンド」として検出されます。伝統的な発色法では、HRP標識抗体と基質(DABやBCIP/NBTなど)の反応によって膜上に不溶性の色素沈着を生成し、目視あるいはスキャナーでバンドを確認します。発色法は手軽ですが感度が低く、微量タンパク質の検出には不向きです。

現在主流の検出法は化学発光法で、HRP標識二次抗体とルミノール系基質の反応により発光を生じさせ、X線フィルムやCCDカメラで記録します。化学発光は非常に高感度で、ngオーダーの検出が可能であることから、多くの実験で用いられています。

一方で、近年は蛍光検出法も普及してきました。蛍光標識抗体を用いることで、専用のイメージャー上で高い直線性を持つ定量的な信号を得られます。蛍光検出は複数のターゲットを異なる波長で同時検出できる利点もあり、定量解析に適しています。

放射線同位体を用いたオートラジオグラフィー法も高感度ですが、扱いの難しさや安全面から現在ではほとんど利用されていません。目的に応じて、最適な検出手段とイメージング装置を選択すると、バンドの検出精度と定量性を向上できるでしょう。

まとめ

ウエスタンブロッティングでは、「装置の種類」「メンブレンやバッファー」「ブロッキング条件」「検出法の選択」などのポイントを踏まえてプロトコルを最適化することで、実験の再現性向上や時間短縮が期待できます。

さらに、実験の効率化・自動化に向けて、高性能なCCDイメージャーや自動ブロッティング装置の導入も有効です。例えば、CCDカメラ搭載のイメージングシステムを用いれば、化学発光検出を暗室やX線フィルムを使わず迅速に行えます。また、一連のブロッティング工程を自動化する装置を使うことで、作業時間の短縮とヒューマンエラーの低減にもつながります。

ウエスタンブロッティングに関連する機器については、以下のページからご参照ください。

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