COLUMN製品コラム
CO2インキュベーターとは?原理や使用目的・選定ポイントを解説

CO2インキュベーターは、細胞の代謝や増殖、分化などが最適に進行する環境を再現する装置であり、再生医療や創薬、遺伝子工学の分野において重要な役割を担っています。特に、pHの安定化や外部からのコンタミネーション防止といった点で、一般的なインキュベーターとは異なる高い性能が求められます。
この記事では、CO2インキュベーターの定義や仕組みを解説するとともに、制御方式の違いや用途、導入時にチェックすべき選定のポイントを紹介します。
1. CO2インキュベーターとは
CO2インキュベーターとは、生体内の環境に近い条件で細胞を培養するための装置です。一定範囲に安定して温度・湿度・CO2濃度を保つ機能を備えており、再生医療や創薬研究をはじめとする多くの細胞培養現場で使用されています。
CO2インキュベーターのチャンバー内部には温度センサー・CO2センサー・ファンなどが設置されており、CO2ガスの注入や空気循環により、均一で安定した培養環境が維持されます。
1-1. 細胞培養にCO2インキュベーターが使われる理由
細胞培養において一般的な培養器(インキュベーター)ではなくCO2インキュベーターが必要な理由は、培地中のpHを生理的な条件に近い状態で安定的に保つためです。哺乳類の細胞はpH7.4前後という狭い範囲で最適に機能するため、環境を維持できなければ細胞の代謝や分化、増殖に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
動物細胞の体液では、炭酸水素イオン(HCO3–)と二酸化炭素(CO2)からなるHCO3–/CO2緩衝系によってpHの恒常性が保たれています。これを模倣するため、細胞培養でも培地に炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を添加し、CO2インキュベーターでCO2を一定濃度に保つことでpH調整を行います。
CO2濃度が低下すると、炭酸水素イオン(HCO3–)との平衡が崩れ、H+の供給が減少してpHが上昇し、アルカリ性に偏ります。結果、培地のpHが塩基性に偏り、細胞の生育環境が損なわれる恐れがあります。したがって、温度制御に加えてCO2濃度の安定供給ができるCO2インキュベーターは欠かせない装置の1つです。
1-2. CO2インキュベーターの使用目的
CO2インキュベーターは、再生医療、創薬、ウイルス学など多様な分野において、細胞の生理的状態を再現した環境での培養を可能にするため、広く活用されています。
大学や研究機関では、iPS細胞やがん細胞、遺伝子組換え細胞などを用いた研究において、細胞機能を損なわずに培養するためにCO2インキュベーターが欠かせません。家畜の品種改良や病原体検出法の開発などを目的として、研究用の動物細胞やウイルスの取り扱いにも用いられます。
民間企業や医療機関でも、抗体医薬品やワクチンの生産工程において高品質な細胞を大量に培養するため、CO2インキュベーターが導入されています。また、がん治療薬の開発における薬剤感受性試験や、体外受精における受精卵の培養など、多くの医薬品開発シーンで活用される装置です。
2. 【制御方式別】CO2インキュベーターの原理
CO2インキュベーターにおける温度制御方式には、大きく分けて「ウォータージャケット方式」と「エアージャケット方式」の2種類があります。いずれもチャンバー内を一定温度に保つことを目的として設計されていますが、保温の手法や反応性、機能性が異なるため、用途や重視する性能によって選びましょう。
2-1. ウォータージャケット方式
ウォータージャケット方式は、チャンバーの内壁と外壁の間に水を満たし、その水の温度をヒーターで制御することで内部の温度を保つ仕組みです。従来より広く用いられている方式であり、現在でも多くの研究施設で採用されています。
ウォータージャケット方式の主なメリットは、比熱の高い水を用いることで温度変化に対するクッション性が高く、温度分布が均一で安定している点です。特に外気温の変化や扉の開閉に強く、温度ムラが生じにくいため、長期間の培養にも適しています。また、万が一停電が発生しても、水の蓄熱性により急激な温度低下が避けられ、試料保護の観点でも優れています。
一方で、水の加熱・冷却には時間がかかるため、設定温度の変更後に安定するまでの反応速度はやや緩慢です。また、水の注入や定期的なメンテナンスが必要となるため、設置や運用の手間が生じやすく、本体重量も大きくなりがちです。
2-2. エアージャケット方式
エアージャケット方式は、チャンバーの壁面に直接ヒーターを設置し、空気を加温してチャンバー内の温度を制御する仕組みです。構造が比較的シンプルで、CO2インキュベーターの軽量化やコストダウンにもつながっています。
エアージャケット方式のメリットは、温度設定の追従性が高い点です。温度の立ち上がりが早く、短時間で設定値に達するため、条件変更を頻繁に行う用途に適しています。また、一部のエアージャケット方式では、乾熱滅菌機能を搭載している機種もあり、コンタミネーションの発生リスクを低減できるのも強みです。
ただし、水を使用しないため蓄熱性がなく、停電時には温度が急速に低下する可能性があります。また、外気温の変化の影響を受けやすく、周辺環境によっては温度管理が不安定になりやすい点はデメリットです。
3. CO2インキュベーターのCO2制御方式
CO2インキュベーターは、チャンバー内のCO2濃度を一定に保つことで培地のpHを安定させるため、正確なCO2濃度の測定が欠かせません。主に使用されるCO2濃度の測定方式には、「T/Cセンサー(サーミスタ式)」と「IRセンサー(赤外線式)」の2種類があります。
T/Cセンサー(サーミスタ式)は、CO2濃度による熱伝導率の変化を測定し、間接的に濃度を検出する方式です。構造が単純でコストも低いため、多くの一般的なCO2インキュベーターに採用されています。温度および湿度の条件が安定している環境下での使用に適しており、一定条件下での継続的な培養に向いています。
IRセンサー(赤外線式)は、赤外線の吸収特性を用いてCO2濃度を測定する方式です。CO2には特定の波長の赤外線を吸収する性質があるため、精度の高い測定が可能になります。また、温度や湿度の変動に影響されにくく、環境条件が頻繁に変わる用途や高精度が求められる実験に適しています。ただし、センサー構造が複雑であることからコストはやや高めです。
4. CO2インキュベーターの選定ポイント
CO2インキュベーターは、細胞培養の成功を左右するため、培養するターゲットに合ったものを選ぶことが大切です。特にコンタミネーション防止機能、温度やガス濃度の安定性、培養試料に適した容量といった点は、インキュベーター選定において重要な要素となります。
4-1. コンタミネーションを防止する機能があるか
細胞培養において最も注意が必要なのが、微生物や真菌などによるコンタミネーションです。コンタミを起こすリスクを最小限に抑えるためには、インキュベーターに高水準の滅菌・清掃機能が備わっているかを確認する必要があります。
例えば、乾熱滅菌や熱除染機能を備えたインキュベーターであれば、芽胞や耐熱性のある微生物も確実に死滅させ、クリーン環境を保つことが可能です。また、チャンバー内が継ぎ目のない一体成型構造になっていると、菌の潜伏スペースができにくく、清掃の手間も減ります。さらに、銅などの抗菌作用のある素材を使用している製品であれば、菌の付着や繁殖をより効果的に抑制できます。
4-2. 培養環境は安定しているか
インキュベーターの性能を見極める上では、温度・CO2濃度・湿度の安定性も不可欠です。
温度管理については、全体を均一に加熱できる構造を採用しているモデルであれば、庫内温度にむらが起きにくくなります。また、ドア開閉時の温度復帰時間が短いインキュベーターであれば、外気の影響による温度変化を抑えて、細胞にストレスを与えにくい環境を維持できます。
CO2濃度の制御には、庫内ガスを適切に混合・供給する設計が重要です。湿度に関しても、結露を抑える構造や自動加湿制御機能が備わっているか確認しましょう。
4-3. 培養試料に合った容量があるか
インキュベーターの選定では、研究に使用するサンプル量や器具のサイズ、今後の研究計画も見据えた容量の検討が必要です。庫内容量が不足していると、棚板の配置や器具の収容に無理が生じ、庫内の通気や温湿度分布にも悪影響を及ぼします。
一方で、容量が過剰に大きすぎると、必要以上の電力や設置スペースを消費するだけでなく、チャンバー内の均一性を維持しづらくなることもあります。そのため、培養する細胞の種類やサンプル数に応じて、適切な内部容量と外形寸法のモデルを選択することが重要です。
特に、研究室の限られたスペース内に設置する場合は、外形サイズの確認も欠かせません。
まとめ
CO2インキュベーターは、温度・湿度・CO2濃度を精密に制御することで、細胞の安定培養を実現する装置です。ウォータージャケット方式やエアージャケット方式といった温度制御の仕組み、T/CセンサーやIRセンサーを用いたCO2制御方式など、使用環境に応じた適切な選定が求められます。
また、コンタミネーションのリスクを抑える機能や、培養環境の変動を抑える安定性、研究規模に応じた容量の選択といった点も、装置選定時の重要な判断基準です。特に医療・バイオ系の研究開発では、データの再現性と品質保持の観点から、CO2インキュベーターの性能が実験結果を左右する可能性もあります。
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