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マルチガスインキュベーターとは?原理・使用目的・製品仕様も解説

CB56/CB170/CB260/CB-S170/CB-S260

細胞培養や再生医療の研究を行う際、実験環境の再現性や安定性は極めて重要です。特に、酸素や二酸化炭素などのガス環境を精密に制御することで、より生体内に近い条件を再現する必要があります。そこで活躍するのが「マルチガスインキュベーター」です。

当記事では、マルチガスインキュベーターの仕組みや特徴、なぜCO2濃度がpHに影響するのかといった基礎知識に加え、実際の商品モデルやその仕様についても紹介します。最適な培養環境を構築するための参考にしてください。

目次

1. マルチガスインキュベーターとは
1-1. マルチガスインキュベーターの原理

2. マルチガスインキュベーターの使用目的
2-1. CO2濃度がpHに影響する理由

3. マルチガスインキュベーターの製品仕様
3-1. CO2 / マルチガスインキュベーター CB&CB-Sシリーズ
3-2. マルチガスインキュベーター MCO-50M-PJ
3-3. マルチガスインキュベーター MCO-170MUV-PJ

まとめ

1. マルチガスインキュベーターとは

マルチガスインキュベーターとは、温度・湿度・CO2(二酸化炭素)濃度を安定させ、O2(酸素)やN2(窒素)を制御することで、より生理的条件に近い培養環境を再現できる装置です。
CO2インキュベーターではCO2濃度の調整のみが可能ですが、マルチガスインキュベーターでは低酸素条件の再現も可能です。再生医療やがん研究など、特殊な実験ニーズにも対応できます。なお、濃度制御範囲や温度制御範囲などは、機器によって異なります。

1-1. マルチガスインキュベーターの原理

マルチガスインキュベーターは、内槽の壁面を加温することで温度を制御し、ファンによって空気・CO2・O2・N2を循環させて槽内環境を均一に保つ構造です。CO2濃度は槽内のCO2センサーにより管理され、加湿は底面に置かれたバット内の水の自然蒸発で90%以上の湿度を維持できます。
加温方式にはウォータージャケットとエアジャケットの2種類があります。ウォータージャケットは内槽の周囲に水を循環させて温度を安定させる方式で、保温性と温度分布に優れ、停電時も急激な温度低下を防げるのが特徴です。一方、エアジャケットは内槽の周囲に空気層を設けて加温する方式で、温度の立ち上がりが早く、乾熱滅菌運転が可能という利点があります。

2. マルチガスインキュベーターの使用目的

マルチガスインキュベーターは、細胞や微生物の培養に必要な生理的環境を安定して再現するための装置であり、主に4つの制御機能を備えています。

(1)温度の制御
多くの場合、庫内温度は哺乳類細胞の体温に近い37℃前後に設定され、細胞が安定して生育できる環境を維持します。

(2)湿度の保持
加湿バットによる自然蒸発によって槽内を高湿度に保ち、培地の乾燥を防ぐことで細胞へのダメージを回避します。

(3)CO2濃度の制御
CO2を供給することで培地内のpHを安定化させ、細胞代謝で生じる酸性化の影響を抑える役割があります。

(4)酸素濃度の制御
O2濃度調整のためにO2やN2を個別に供給できる仕組みとなっており、CO2濃度を一定に保ちながら、低酸素や高酸素といった特殊な条件下での培養にも対応可能です。

器内ガス濃度・温度調節により、再生医療や腫瘍研究など、特定のガス環境を必要とする先端的な研究にも応用されています。

2-1. CO2濃度がpHに影響する理由

細胞培養に用いられる培地には、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が含まれています。NaHCO3は、CO2と水から生じる炭酸系の変動を緩衝し、培地のpHを一定に保つ役割を果たす物質です。CO2が水と反応して炭酸(H2CO3)となり、さらにH+(水素イオン)を放出してpHを下げます。そのため、CO2濃度が上昇すると酸性に、低下するとアルカリ性に傾きます。
細胞の代謝で生じた酸はHCO3–(重炭酸イオン)と結合してCO2とH2Oになりますが、CO2は水中から大気中へ容易に拡散するため、外部へ逃げるとH+供給が減少してpHが上昇します。これを防ぐため、インキュベーター内でCO2濃度を一定に保ち、pHの安定化を図っています。

3. マルチガスインキュベーターの製品仕様

マルチガスインキュベーターには、用途や設置環境に応じたさまざまな製品が存在します。ここでは、代表的な機種の特徴や仕様について紹介します。

3-1. CO2 / マルチガスインキュベーター CB&CB-Sシリーズ

CB&CB-Sシリーズは、ドイツのBINDER社が提供する高性能なCO2/マルチガスインキュベーターであり、細胞培養に求められる厳密な環境制御とコンタミネーション対策を追求したモデルです。CBシリーズはマルチガス仕様に対応しており、0.2%までの低酸素培養が可能で、幹細胞培養や腫瘍細胞研究に適しています。

180℃乾熱滅菌機能と継ぎ目のない一体成型チャンバー、庫内ファンレス構造による徹底した庫内汚染対策が最大の特徴です。温度・CO2濃度・湿度のいずれも高い均一性と安定性を備えており、再現性の高い培養環境を構築・維持できます。

CB-Sシリーズはベーシックモデルで容量は170L・267Lの2サイズ、CBシリーズは53L・170L・267Lの3サイズから選択することが可能です。さらに、分割インナードア、銅製棚板、能動加湿機能、ガスミキシングヘッドによる精密なCO2制御など、多彩なオプションも揃っています。IQ/OQや21 CFR Part11への対応も可能で、厳格な研究管理体制にも向いています。

CO2 / マルチガスインキュベーター CB&CB-Sシリーズ

3-2. マルチガスインキュベーター MCO-50M-PJ

MCO-50M-PJは、PHCが開発したコンパクト設計のマルチガスインキュベーターで、限られたスペースにも設置できる省スペースモデルです。1ドナー1チャンバーでの運用を想定しており、クロスコンタミネーション対策としても有効です。棚受けと内箱を一体化した構造により、部品点数を大幅に削減しており、器内清掃の手間を軽減しつつ、収納効率を高めています。

操作パネルには有機ELディスプレイを採用し、温度・CO2濃度・O2濃度を0.1%単位で高精度に表示することが可能です。ログ機能によって各種履歴データをUSBへ出力できるほか、リバーシブルドアやKeyLock、電気錠のオプションなど、操作性とセキュリティにも配慮されています。

CO2センサーには2波長測定のデュアルIR方式、O2センサーには拡散型ジルコニアセンサーを搭載しており、濃度制御の安定性にも優れています。加えて、N2ガスオートチェンジャーを標準装備しており、低酸素環境の維持にも対応可能です。オプションで搭載可能な過酸化水素除染機能では、約2時間半で高速除染ができるため、衛生管理が重要な再生医療などの分野にも適しています。

マルチガスインキュベーター MCO-50M-PJ

3-3. マルチガスインキュベーター MCO-170MUV-PJ

MCO-170MUV-PJは、PHCが提供する中型クラスのマルチガスインキュベーターで、培養効率と作業性を両立する先進的な設計が特徴です。内箱と棚受けを一体化することで構成部品を約80%削減しており、メンテナンス性が向上するとともに、内部のスペースを有効活用できます。培養容器の設置量も増え、日常の運用がより効率的になります。

濃度表示・操作にはフルカラーのWVGA液晶タッチパネルを採用しており、手袋を着用したままでもスムーズに操作できます。USBポートを標準搭載しており、温度やガス濃度、アラーム記録などのデータを外部に保存し、PCで管理することが可能です。セキュリティ対策として、パネルロックや電気錠(オプション)によるアクセス制限にも対応しています。

CO2制御には高精度なデュアルIRセンサー、O2制御には拡散型ジルコニアセンサーを使用し、外的変化に強い安定した環境を維持します。さらに、H2O2による高速ECO除染機能を活用すれば、約2時間半で清潔な培養環境への復帰が可能です。設置性にも配慮されており、リバーシブルドアのほか、2段積み構成による柔軟なレイアウトにも対応できます。

マルチガスインキュベーター MCO-170MUV-PJ

まとめ

マルチガスインキュベーターは、温度・湿度・CO2・O2などを高精度に制御することで、細胞や微生物の培養における最適な環境を提供します。CO2濃度の調整はpHの維持に重要であり、また濃度環境の操作によって再生医療やがん研究などの先端的な分野にも活用可能です。

代表的な製品であるBINDERのCBシリーズや、PHCのMCOシリーズは、高度な除染機能、優れたデータ管理機能、操作性・安全性を備え、研究現場の多様なニーズに対応しています。これらの製品を導入することで、研究の再現性や効率性が向上し、より質の高い成果につながるでしょう。

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