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溶存酸素計とは?測定原理や構成方法・設置方法の種類を徹底解説
溶存酸素計(DO計)は、河川から下水まで水質管理や環境モニタリングが必要な場面で幅広く導入される、水中にどれだけ酸素が含まれているかを計測する機器です。溶存酸素量の計測結果は、水生生物の生態系を守り、水質汚染の進行や富栄養化などを早期に検知する指標として機能します。
この記事では、溶存酸素計とは何か、また原理や校正方法、種類について分かりやすく解説します。水質管理のために溶存酸素計を導入予定の方は、ぜひ参考にしてください。
目次 1. 【基礎】溶存酸素計とは? 1-1. 溶存酸素計の用途 2. 溶存酸素計の原理 2-1. 蛍光法 2-2. 隔膜電極法 2-3. 滴定法 3. 溶存酸素計の校正方法 4. 溶存酸素計の種類 4-1. 設置型 4-2. 卓上型 4-3. 携帯型 まとめ |
1. 【基礎】溶存酸素計とは?
溶存酸素計(DO計)とは、水の中に溶け込んでいる酸素量を測定できる機器のことです。単位容積あたりの酸素量は、mg/Lで表されます。
溶存酸素は、水中に溶解している酸素量のことです。DO(Dissolved Oxygen)とも呼ばれており、川や湖、沼などの水質計測を行う際の環境指標の1つとされています。陸上の生物が息をするのと同様、水生生物は溶存酸素を取り込んで呼吸をするため、水中に生息する生物の数が多いほど、溶存酸素量も減少する仕組みです。
1-1. 溶存酸素計の用途
溶存酸素計は、水中生物の生存管理や下水での好気性生物処理の管理、河川や湖、沼の環境測定などをする際に指標となる、溶存酸素を計測する目的で用いられます。
また溶存酸素計は、研究分野で液体中の化学反応の作用を調査する際のデータ採取や、製品の製造工程での脱酸素処理の管理方法として用いられることもあります。近年は、ファインバブル水・マイクロバブル水を利用した農業・養殖業などに応用されることもあり、水中の溶存酸素濃度の測定が必要な幅広い分野で活躍する機器です。
2. 溶存酸素計の原理
溶存酸素計の測定原理(測定方法)には、いくつかの種類があります。最も一般的な測定原理は、隔膜電極法です。以下の見出しでは、隔膜電極法を含む代表的な溶存酸素計の測定原理を3つ紹介します。
2-1. 蛍光法
蛍光法は、青色LEDの光によって励起(れいき)した蛍光物質が基底(きてい)状態に戻る際に放出する赤色光(りん光)の発光時間をもとに、酸素濃度を測定する方法です。励起とは、物質に外部からエネルギーを加えて、一時的に高エネルギー状態に移すことを指します。基底とは、物質のエネルギーが安定した状態のことです。
蛍光物質の周囲に酸素がある場合、酸素によりりん光のエネルギーが奪われるため、発光時間が短くなり、光の強度も弱まります。溶存酸素計は、酸素量に反比例するりん光の発光時間を計ることで、酸素濃度を測定するシステムです。
蛍光法は隔膜や電解液を使用しないため、環境水や排水の計測に向いています。水の流れがなくても測定できる点や、妨害物質による影響を受けないことも特長です。
2-2. 隔膜電極法
隔膜電極法は、電極の先端に酸素透過性の高い隔膜を設置し、隔膜を透過した酸素濃度を測定する方法です。
電解質溶液の中に2種類の金属を設置し、金属間に一定の電圧をかけると、隔膜を透過した酸素濃度に応じた電流が発生します。隔膜電極法の中でも、両側の電極に一定電圧をかけて電流を測定する方法を「ポーラログラフ式」と呼びます。一方、電圧を加えずに水中の溶存酸素量に応じて発生する電流を測定する方法が「ガルバニ電池式」です。
隔膜を透過する酸素濃度は、水中の酸素分圧に比例します。記憶された飽和溶存酸素量をもとに、酸素分圧を濃度に換算することで、酸素量を測定する仕組みです。
隔膜電極法を用いる場合、一定期間ごとに電解質溶液や隔膜の交換・メンテナンスをしなくてはなりません。また、隔膜の表面では酸素が消費されるため、正しい結果を得るには測定水を攪拌して流速を作る必要があります。
2-3. 滴定法
滴定法は、試薬を厳密に調合した上で滴定を行い、結果を公式に当てはめて酸素濃度を計算する方法です。滴定とは、ある溶液に濃度既知の別の溶液を加え、化学反応が完了するポイントを計測することで、溶液に溶け込んだ物質の量を調べる分析方法です。滴定法には、ウインクラー・アジ化ナトリウム変法とミラー変法の2種類があります。
ウインクラー・アジ化ナトリウム変法は、試料水に硫酸マンガン溶液・水酸化ナトリウム溶液を加えて、褐色の水酸化マンガン(II)沈殿を生成する方法です。ヨウ化物イオン(I-)の存在下で褐色沈殿に酸を加えて溶かすと、溶存酸素量に応じたヨウ素が遊離します。遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定した後、でんぷん溶液で再度滴定し、結果を公式に代入することで、溶存酸素量を測定可能です。
ミラー変法では、メチレンブルー溶液・酒石酸ナトリウム-水酸化ナトリウム溶液・流動パラフィンを調合し、流動パラフィン層が乱れないよう、慎重に試料水を加えます。硫酸アンモニウム鉄(II)溶液を使ってメチレンブルー溶液の青色が消えるまで滴定し、結果を公式に代入することで、溶存酸素量を測定可能です。
3. 溶存酸素計の校正方法
溶存酸素計の使用時は、校正(調整)を行う必要があります。校正方法は、主にゼロ校正とスパン校正の2種類です。ゼロ校正は、低濃度の溶存酸素を正確に測定したいときや低濃度の測定値に異常が見られるときに、溶存酸素計のゼロ点を理論値に合わせるための方法です。校正には、5%以上の亜硫酸ナトリウム水溶液を使用します。
スパン校正は、記憶させた飽和溶存酸素量を、試料水の溶存酸素量に換算する方法です。スパン校正には、溶存酸素飽和水(蒸留水またはイオン交換水に通気を行い、溶存酸素を飽和させたもの)を使用します。またスパン校正には、大気中酸素の分圧と水中の飽和溶存酸素の分圧がほぼ等しいことを利用して、簡易的に大気中の酸素分圧を利用する方法もあります。
4. 溶存酸素計の種類
溶存酸素計には複数の種類があり、使用目的に応じて適した種類を選ぶことが大切です。最後に、溶存酸素計の代表的な種類として、設置型・卓上型・携帯型の特徴を詳しく解説します。
4-1. 設置型
検出器と変換器で構成された、現場に設置して使用するタイプの溶存酸素計です。コンセントで電源に接続するため、バッテリーを気にせず長期間の継続測定ができます。連続測定をする場合、検出器の隔膜に汚れが蓄積して酸素量の検知感度が低下しやすいため、多くの設置型溶存酸素計には、自動洗浄機構が内蔵されています。河川水・工場排水の水質監視や下水処理施設のばっ気槽での溶存酸素管理などによく利用される種類です。
4-2. 卓上型
卓上型は、大学の研究室や企業のラボなどでよく使用される種類の溶存酸素計です。酒類や酢の溶存酸素測定、水産養殖の現場での溶存酸素測定、染色液の溶存酸素測定など、ほかにも幅広い用途で活躍します。
多くの機種は充電式で、電源がない場所でも使用できます。また、電源ケーブルを接続すれば、長時間の継続使用にも対応可能です。機種によっては、オプションパーツなどを使って壁掛け型として使えるものもあります。
4-3. 携帯型
携帯型溶存酸素計は、持ち運びを前提として、小型かつ軽量に設計された製品です。充電式で、電源のない屋外でもスムーズに測定ができます。基本の溶存酸素測定に特化したスタンダードな製品からデータ管理・PC転送などの機能を搭載した製品まで、機種によって機能性は大きく異なります。ポータブルタイプの溶存酸素計を現場に持ち込んで、その場で測定をしたい方におすすめの種類です。
まとめ
溶存酸素計の性能や利便性は、採用する測定原理だけでなく、校正やメンテナンスによっても大きく左右されます。特に、ゼロ校正とスパン校正を正しく行い、隔膜電極の交換時期や試薬の品質管理を徹底することは、高精度の計測を維持するうえで欠かせません。
また、設置型なら連続測定に向いた自動洗浄機構、卓上型なら長時間使用できる充電式機能、携帯型なら持ち運びやすい軽量設計など、タイプごとの特徴を生かすことも重要です。それぞれの機器の長所を理解した上で運用すれば、水環境の保全や研究開発、製造工程での品質管理など、多彩な分野で信頼性の高いデータを得られるでしょう。
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