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精密空調機とは?仕組みや種類・精密空調機が必要な分野を紹介

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製造業、研究開発、データ管理などの分野では、温度や湿度のわずかな変化が製品の品質、実験の精度、設備の安定稼働に大きな影響を与える可能性があります。精密空調機は極めて厳密な環境条件を維持するために設計された空調システムです。

当記事では、精密空調機とは何か、必要性や一般的なエアコンとの違い、動作原理、種類、さまざまな産業における具体的な活用事例について詳しく解説します。精密空調機の導入を検討する際に役立つ情報を知りたい方は必見です。

目次

1. 精密空調機とは?
1-1. 通常のエアコンとの違い

2. 精密空調機の仕組み
2-1. 精密空調機の種類

3. 精密空調機が活躍する分野
3-1. 精密機械の生産
3-2. 研究分野
3-3. 資料の収蔵

4. 精密空調機にかかるコスト
4-1. 精密空調機にかかるランニングコスト

まとめ

1. 精密空調機とは?

精密空調機は、一般的な空調機よりも高い精度で温度・湿度・清浄度を制御できる空調設備です。用途としては、大きく「全体空調」と「局所空調」に分類されます。

全体空調部屋や建物全体の温度・湿度・清浄度を均一に制御する方式です。半導体工場や医薬品工場など、広いエリアで高精度な環境制御が求められる現場で使用されます。
局所空調特定のエリアや機器周辺のみをピンポイントで制御する方式です。データセンターのサーバーラックや測定機器の周辺など、限定された範囲での高精度な環境管理が必要な場合に用いられます。

半導体や精密機器の製造現場では、わずかな温度・湿度の変化が製品品質に大きな影響を及ぼします。精密空調機は、こうした製品を安定して製造するために欠かせない設備です。

1-1. 通常のエアコンとの違い

精密空調機と通常のエアコンの最大の違いは、温度制御の精度にあります。一般的なエアコンの温度精度が±1.5℃~±2.0℃程度であるのに対し、精密空調機の中でも特に高度なシステムでは±0.1℃という非常に高い精度を実現しています。

また、一般的なエアコンは基本的に冷房または暖房のどちらか一方の運転しか行いません。しかし、精密空調機は冷房と暖房を同時に行うことが可能です。これにより、室内の熱負荷の変動にも即座に対応し、わずかな温度変化にもすぐ反応することで、常に一定の温度を維持します。

精密空調機の温度管理は「設定温度に近づける」のではなく、「設定温度を正確に維持する」ことが目的です。設定温度から外れた場合にのみ冷暖房を行う一般的なエアコンとは、温度制御に対する考え方そのものが大きく異なると言えるでしょう。

2. 精密空調機の仕組み

精密空調機は、通常のエアコンと同様に、まず冷媒を圧縮して高温高圧の気体にし、それを冷却して液化させることで冷却能力を得ます。冷却された冷媒によって空調用の空気が所定の温度まで冷却されます。

精密空調機は、この冷却された空気をさらに供給用の所定の温度まで加熱して供給する点が特徴です。

2-1. 精密空調機の種類

精密空調機は、温度調整方法と冷却方式によって分類できます。

【温度調整方法による分類】

加熱ヒーター制御
冷却した空気を所定の温度まで加熱するために電気ヒーターを用いる方式です。加熱時のヒーター消費電力が大きいため、ランニングコストが高くなる傾向があります。

ヒーターレス
冷媒回路を活用して冷却・加熱の両方を行う方式です。冷却システムで冷やした空気を冷媒回路内で加熱することで、高精度な温度制御を実現します。エネルギー効率が高く、ランニングコストを抑えられるのが特長です。

【冷却方式による分類】

空冷式
空気で冷媒を冷却する方式です。設置工事やメンテナンスが比較的容易で、一般的な用途に広く用いられています。

水冷式
水を用いて冷媒を冷却する方式です。空冷式に比べ、熱交換効率が高く、より高精度な温度制御が可能とされています。大規模設備で使用されることが多い方式です。

グリコール冷却式
冷却媒体として水ではなく、グリコール(不凍液)を使用する方式です。低温環境下でも凍結の心配がなく、寒冷地や特殊環境での運用に適しています。

3. 精密空調機が活躍する分野

精密空調機は、高い温度・湿度制御性能を生かし、さまざまな分野で活用されています。例えば製造業においては、精密な加工や安定した製造を行うために、精密な空調管理が不可欠です。

以下では、3つの分野について掘り下げて紹介します。

3-1. 精密機械の生産

精密機械の製造現場では、わずかな温度変化が製品の寸法精度や加工品質に大きな影響を及ぼすことがあります。特に、半導体製造装置や光学機器、医療機器、計測機器などの製造工程では、ミクロン単位、ナノ単位の高精度な加工が求められるため、温度の微細な変化さえも不良品発生の原因となり得ます。

たとえば、金属や樹脂などの素材は温度変化によって膨張・収縮する性質があり、加工中の温度変化が製品の精度低下を招く恐れがあります。生産ラインや加工室には精密空調機を導入し、温度・湿度を常に一定に保つ環境を構築することが不可欠です。

また、クリーンルームなどの特殊環境下では、粒子や湿度管理とあわせて高精度な温度管理も求められることから、精密空調機の重要性はさらに高まります。これにより、製品の品質向上だけでなく、生産効率の安定化や不良率の低減にもつながります。

3-2. 研究分野

精密空調機は、大学や企業の研究開発施設、試験室、実験室などでも不可欠な設備として活用されています。化学、物理学、バイオテクノロジー、医薬品開発などの分野では、実験の再現性や精度を確保するため、温度・湿度の精密な制御を行う必要があります。

例えば、化学反応や材料特性の測定は、室温や湿度の変化によって結果が左右されるケースもあるので、精密空調機による安定した環境制御が求められます。さらに、電子顕微鏡や精密計測機器などの高性能機器は、温度変化による装置内部のわずかな膨張・収縮や振動さえも測定結果に影響を及ぼします。精密空調機を導入することで、研究の信頼性向上やデータ精度の確保につながります。

3-3. 資料の収蔵

精密空調機は、博物館や美術館、図書館、公文書館といった資料収蔵施設でも使用されています。これらの施設では、貴重な文化財・絵画・書籍・文書などの保存状態を長期間維持するため、温度・湿度を厳密に管理しなければなりません。

紙や木材、布、絵具などの有機材料は、湿度の変化によって劣化や変形が進行しやすく、カビの発生やインクのにじみといったリスクも高まります。さらに、極端な温度変化も素材の収縮・膨張を招き、ひび割れや破損の原因となります。

精密空調機を導入することで、年間を通して安定した温湿度環境を維持し、資料の劣化を最小限に抑えるので、貴重な資料を良好な状態で後世に残すことが可能です。

4. 精密空調機にかかるコスト

精密空調機の導入にかかる価格帯は、性能や仕組みによって大きく変動します。平均価格は約250万円とされており、70万~300万円以上のものまで価格帯は幅広いです。大型のモデルになると、1,000万円を超える価格帯の製品も存在します。

価格に影響を与える要因としては、まず温度制御の精度が挙げられます。より高い精度が求められるほど、高度な制御システムや部品が必要となり、価格も上昇する傾向です。また、冷却能力や処理風量といった性能も価格に大きく影響します。

4-1. 精密空調機にかかるランニングコスト

精密空調機のランニングコストは、主に運用費と保守費で構成されます。

運用費
運用費の中心は電気代です。精密空調機は、一般的なオフィス用エアコンに比べて運転時間が長く、24時間365日稼働することも珍しくありません。そのため、電気代は高くなる傾向があります。

保守費
保守費には、定期的な点検費用やフィルター交換費用、修理費用などが含まれます。精密空調機は高精度な制御を行うために複雑な機構を備えており、定期的なメンテナンスが不可欠です。特に、クリーンルームなどで使用される場合は、HEPAフィルターなどの高性能フィルターを定期的に交換する必要があり、その費用も保守費に含まれます。

設備の耐久性や使用環境によって、保守の頻度や費用は変動します。そのため、導入時にはこれらの要素も十分に考慮することが重要です。

まとめ

精密空調機は、一般的なエアコンとは比較にならないほど高い精度で温度や湿度を制御することができ、現代の高度な産業活動を支える上で不可欠な機器です。

製造業における製品の品質向上、研究開発における実験の信頼性確保、文化財などの貴重な資料の長期保存、データセンターにおける機器の安定稼働など、利用範囲は多岐にわたります。導入にあたっては、初期投資だけでなく、長期的なランニングコスト(運用費と保守費)を考慮し、用途や目的に最適な機種を選択することが重要です。

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