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冷却水循環装置(チラー)とは?種類や用途・選び方を徹底解説

冷却水循環装置(チラー)は、製造業をはじめとするさまざまな現場で欠かせない温度管理機器の1つです。機械や製造設備が稼働する際には熱が発生しますが、熱が適切に処理されないと製品品質や設備寿命に悪影響を及ぼします。
冷却水循環装置は単に機械や設備を冷やすだけでなく、温度を一定に保つことが可能です。そのため、食品工場、医療現場、半導体製造、金属加工など、さまざまな分野で不可欠な設備となっています。
この記事では、冷却水循環装置の種類や用途、選び方を解説します。
目次 1. 冷却水循環装置(チラー)とは 2. 冷却水循環装置の種類と仕組み 2-1. 排熱方法による分類 2-2. 循環方式による分類 3. 冷却水循環装置の主な用途とメリット 3-1. 食品工場での水回りの冷却 3-2. 工業機器や工作機械の温度調節 3-3. 医療機器の冷却 3-4. 半導体の温度管理 4. 冷却水循環装置の選び方 4-1. 冷却水循環装置の耐用年数 まとめ |
1. 冷却水循環装置(チラー)とは
冷却水循環装置(チラー)とは、一定の温度に調節された冷却水や循環液を装置や設備に連続的に供給・循環させ、温度を安定して管理するための装置です。
産業用の機械や設備は稼働中に大量の熱を発生させます。しかし、単に冷蔵庫などの冷却装置を取り付けて冷やすだけでは長時間の連続運転や精密な温度管理が難しく、安定した生産が行えません。チラーはヒートポンプを用いて、循環する液体の温度を保てるため、機械を連続で運転しても一定の温度で機械を動かせます。
2. 冷却水循環装置の種類と仕組み
冷却水循環装置は、「どのように熱を逃がすのか」「どうやって液体を循環させるのか」という視点から、それぞれ分類が可能です。
種類ごとの冷却水循環装置の仕組みを解説します。
2-1. 排熱方法による分類
冷却水循環装置の排熱方法には、空冷式と水冷式があります。
空冷式は、本体内に組み込まれたファンモーターを使用して外部の空気を取り込み、冷却器ユニットで熱交換を行いながら、循環液から奪った熱を外気に放出する仕組みです。
構造がシンプルで、冷却水の配管設備が不要なので設置や移動が容易です。しかし、排熱が室内に直接放出されるため、室温の上昇を招きます。そのため、狭い室内に設置する場合は空調設備を整える必要があります。
一方、水冷式チラーは、水を用いて熱を冷却する仕組みです。循環液から奪った熱は、外部から供給される冷却水を介して放出されます。
空冷式に比べて冷却効率が高く、排熱も室内に放出されないことから、室温がより安定し、騒音も比較的少ないというメリットがあります。ただし、冷却水を供給するための配管設備が必要で、設置には工事が伴い、保守管理の手間も増える傾向にあります。
2-2. 循環方式による分類
冷却水循環装置の循環方式には、大きく分けて密閉系循環方式と開放系循環方式の2種類があります。
密閉系循環方式(密閉型チラー)は、冷却水を密閉された配管や熱交換器内で循環させる仕組みです。液体が循環する回路部分が完全に密閉されていることから、外部からの汚染物質や異物の混入を防ぎやすく、水質が劣化しにくいメリットがあります。
また、水槽やポンプを循環装置の本体に内蔵しているタイプが多く、外部に配管設備を設ける必要がないため、省スペースで設置できる製品が多い点も強みです。ただし、密閉構造のため内部の点検やメンテナンスが難しく、長期的な使用では錆や腐食によるトラブルが発生する恐れがある点はデメリットと言えます。
一方、開放系循環方式(開放型チラー)は、冷却水を外部に設けられた開放型の水槽や設備に循環させ、直接冷却する仕組みです。水槽や配管部分がオープンになっているものが多く、目視によるメンテナンスが簡単なため、設備管理がしやすいのが特徴です。また、設備の変更や容量の拡張にも柔軟に対応でき、運用上の自由度が高い方式と言えます。
ただし、外部水槽や配管工事のコストがかかるほか、開放型であるため冷却水が外気に触れ、汚染や腐食が起こりやすいというデメリットもあります。
3. 冷却水循環装置の主な用途とメリット
冷却水循環装置は、生産工程で温度制御を厳密に行う必要がある現場で幅広く使われています。導入により温度管理のために装置にクールタイムを設ける必要がなく、製品の品質を安定化できるため、製造現場では欠かせない設備の1つです。
以下では、冷却水循環装置が製造業の現場にどのようなメリットをもたらすのか、用途ごとに解説します。
3-1. 食品工場での水回りの冷却
生産過程で大量の冷水が必要になる食品工場では、主に水回りを冷却する目的で冷却水循環装置が使われます。
例えば、野菜や果物、水産物など食品素材を洗うときに、水の温度が保たれていないと、野菜や果物がしなびたり、水産物の味が落ちたりする品質事故につながります。パンやお菓子の生産工程でも水温は品質に直結し、豆腐などは製造工程で大量の水が必要です。
また、冷水がなければ微生物が繁殖するリスクも高まるため、冷却水循環装置を使って水回りを一定の温度に保つ必要があります。
冷却水循環装置を導入すると、食品の安全性や品質、食感などを一定に保て、歩留まりを上げられる点がメリットです。さらに、冷却水の温度を精密に管理することで、季節や環境条件に左右されず安定した生産ができます。
3-2. 工業機器や工作機械の温度調節
稼働時に発生する熱が加工精度に影響を与えるため、精密な加工を行う工作機械や工業機器には厳密な温度管理が必要です。金属加工の現場では、高温による材料変形や加工精度低下を防止し、生産性と製品の質を向上する目的で冷却水循環装置が活用されています。
また、射出成形機の金型冷却では、冷却水循環装置を使って一定に金型を冷却することで、製品の精度を高め、不良品発生率を低減しています。レーザー加工機やアーク溶接機の使用にあたっても、機器の動作を安定させ、過熱による故障や性能劣化を防ぐため冷却水循環装置による冷却が不可欠です。
3-3. 医療機器の冷却
医療分野において冷却水循環装置は、MRIやCTスキャン装置、レーザー手術機器など医療機器類の安定稼働に役立つ機器です。
MRI装置では超電導磁石の冷却、CTスキャン装置ではX線管が発する熱管理に冷却水循環装置が使われます。また、レーザー治療装置でもレーザー発振部の温度管理を行い、正確で安定した治療効果を得るために活用されています。
医療の現場に冷却水循環装置を導入すれば、安定した温度制御が可能になり、診断・治療の精度を向上させ、機器の耐久性や安全性を確保できる点がメリットです。
3-4. 半導体の温度管理
繊細な半導体部品の製造現場において、温度変化はわずかなものでも製品の品質に影響します。半導体製造装置、ウェハの洗浄装置、エッチング装置、スパッタリング装置などでは、プロセスごとの温度条件が厳密に決められており、冷却水循環装置による温度の安定化が不可欠です。
冷却水循環装置を導入すれば温度を一定に管理できるようになり、半導体回路の形成精度を向上させ、不良品発生率を大幅に下げられます。また、温度の安定化は、半導体製造装置そのものの長寿命化にも寄与します。
4. 冷却水循環装置の選び方
冷却水循環装置を選ぶにあたっては、まず冷却対象に適した循環水の温度設定を行うことが重要です。冷却対象の装置が最も効率よく動作する温度を確認し、温度を安定して維持できる冷却水循環装置を選定します。
温度が決まったら、用途に合わせて冷却水循環装置のタイプを選びましょう。装置に直接冷却水を送りたい場合は、ポンプや水槽が一体化されている密閉系循環方式の冷却水循環装置が向いています。一方で、既存の設備に水槽が設置されている場合や、後で拡張の予定がある場合は、開放系循環方式タイプを選択することで設備を有効活用でき、コストや設置スペースを節約できます。
また、設備を移動させる可能性がある場合には空冷式、室内への排熱を避けたい場合には水冷式が向くため、設置環境を考慮し、どちらの方式が適しているかを判断しましょう。
最後にチェックポイントとして重要なのが冷却能力と循環ポンプ能力です。最大冷却能力とポンプ圧が十分かチェックしましょう。
冷却水循環装置の冷却能力は、以下の計算式で計算できます。
対象物の体積(m3)×対象物の比熱(J/kg℃)×対象物の密度(kg/L)×対象物の温度差(℃)÷冷却秒数=負荷容量(kW) |
通常はバッファとして、必要冷却能力の20%程度を見ておくのがおすすめです。
また、流量維持に必要なポンプ圧を見積もる場合、配管経路や配管の長さ、継手の数などによって配管抵抗が変わります。各要素を考慮した揚程計算を行い、能力に余裕のある機種を選ぶことがトラブル防止につながります。
4-1. 冷却水循環装置の耐用年数
冷却水循環装置の耐用年数は、使用環境やメンテナンス状況によって異なりますが、一般的には6年程度が1つの目安です。ただし、定期的かつ適切なメンテナンスを実施すれば、15年程度の長期にわたり良好な状態で使用できる場合もあります。
長期的に使用する場合、こまめにメンテナンスを実施しましょう。まず、冷却器周辺の霜を取り、続いて取り外せるパーツは外して中性洗剤などで洗いましょう。洗剤を使えない場合は水で拭き清めてください。また、コンデンサーとフィルター部分に異物が目詰まりしていないかチェックし、清掃すると動作が安定しやすくなります。
ただし、耐用年数を超えて使用を続けると冷却性能の低下や突発的な故障など、予期しないトラブルの発生リスクが高まります。安定した運用を維持するためにも、耐用年数を迎えた時点で機器の更新や入れ替えを検討するとよいでしょう。
まとめ
冷却水循環装置を選ぶ際には、冷却方式や循環方式に注目し、用途や設置環境に適したタイプを選択することが重要です。例えば、狭い空間や移動が必要な場合は空冷式、排熱を室外で処理したい場合は水冷式が向いています。
また、精密機器や食品など、異物の混入が問題になる機器を扱う際は密閉型、拡張性やメンテナンス性を重視する場合は開放型を選ぶとよいでしょう。冷却能力やポンプ能力についても、実際の負荷に対して余裕をもった選定を心がけることで、長期間安定した運用が可能になります。
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