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真空ポンプとは?代表的な種類と仕組み・選び方を分かりやすく解説

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真空とは、「通常の大気圧より低い圧力(分子密度)の気体で満たされた空間の状態」とJISに定義されています。真空を作り出すために使われるポンプが「真空ポンプ」です。真空ポンプがあれば、大気圧を利用して空気を移動させ、生活に欠かせないさまざまな技術に役立てられます。

例えば、エアコンの冷媒を循環させる際の配管内の空気抜き、食品の長期保存を可能にする真空パックなどは、日常的にみられる真空ポンプの用途です。さらに半導体や液晶ディスプレイなどの電子機器の製造工程、医療現場での滅菌処理、科学実験など、真空ポンプは多くの分野で使用されている装置です。

この記事では、真空ポンプについて理解できるよう、代表的な真空ポンプの種類と仕組み、用途に合わせた選び方を解説します。

目次

1. 真空ポンプとは
1-1. 真空ポンプの用途

2. 代表的な真空ポンプの種類と仕組み
2-1. 水封式真空ポンプ
2-2. ドライ真空ポンプ
2-3. 油回転式真空ポンプ
2-4. ターボ分子ポンプ
2-5. ゲッターポンプ
2-6. クライオポンプ

3. 真空ポンプの選び方

まとめ

1. 真空ポンプとは

真空ポンプとは、容器内部を大気圧よりも低い状態(=真空)にするための装置です。

真空ポンプの基本的な原理は、容器内の気体を外部に排出することで、内部の圧力を下げるという仕組みです。具体的な仕組みはポンプの種類によって異なりますが、多くの場合、吸気口から気体を吸い込み、圧縮して排気口から排出するという動作を繰り返します。吸入・圧縮・排気の繰り返しによって、容器内部は徐々に真空に近づきます。

1-1. 真空ポンプの用途

真空ポンプは、身の回りのさまざまな場所で活用されています。例えば、エアコンの設置工事における真空引き作業も、配管内の水分や空気を除去するために真空ポンプが用いられます。

半導体や液晶ディスプレイなどの電子デバイス製造においても、真空環境は不可欠です。真空ポンプを用いて不純物を排除し、高品質な製品の製造を支えています。

他にも、食品の酸化を防ぎ、鮮度を保つために真空包装が用いられます。真空状態にすることで酸素が減少し、食品の劣化を抑制することが可能です。肉や魚、野菜などの生鮮食品から、お菓子や調味料などの加工食品まで、幅広い食品の保存に使用されています。

また、魔法瓶や電気ポットなどは、内びんと外びんの間を真空状態にすることで、熱伝導を抑え、保温効果を高めています。真空が熱を伝えにくい性質を利用した技術です。

2. 代表的な真空ポンプの種類と仕組み

真空ポンプにはさまざまな種類があり、それぞれ仕組みや得意とする領域が異なります。ここでは、代表的な6種類の真空ポンプについて、仕組みと特徴を分かりやすく解説します。

2-1. 水封式真空ポンプ

水封式真空ポンプは、ポンプ内部に封水を満たし、羽根車(インペラー)の回転によって水のリングを形成することで真空を作り出すポンプです。この水のリングが、気体の吸入・圧縮・排出を行う役割があります。

具体的な仕組みとしては、インペラーが回転することで、ケーシング(ポンプ本体)の内壁と水のリングの間に空間ができます。空間の容積が変化することで、吸気口から気体が吸い込まれ、圧縮されて排気口から排出されるという流れが繰り返されます。この動作が連続的に行われることで、ポンプ内部が真空状態に近づく仕組みです。

水封式真空ポンプの大きな特徴は、水分を含む気体の吸引に適していることです。例えば、プラスチック成形においては、原料に含まれる水分を一緒に吸引するために水封式真空ポンプが用いられます。また、食品分野では、撹拌や充填などの工程で活用されています。

2-2. ドライ真空ポンプ

ドライ真空ポンプは、油や水などの液体を排気機構に使用しない真空ポンプです。そのため、油の逆流や蒸発による汚染がなく、クリーンな真空環境を作り出すことが可能です。半導体製造や分析機器など、清浄な環境が求められる用途において使用されています。

ドライ真空ポンプは、さまざまな排気機構を持つ機種が開発されており、大気圧から高真空まで幅広い圧力領域で使用できます。例えば、半導体製造工程では、大気圧に近い状態から極めて高い真空状態まで、複数のドライ真空ポンプを組み合わせて使用することで、複雑なプロセスにも対応できるのが特徴です。

また、従来の油回転式真空ポンプでは、油の劣化による定期的な交換や補充が必要でしたが、ドライ真空ポンプはこのようなメンテナンスの手間を減らせるのもメリットです。

2-3. 油回転式真空ポンプ

油回転式真空ポンプは、ポンプ内部に油を使用することで、高い真空度を実現する真空ポンプです。1900年代初頭に発明されて以来、さまざまな分野で広く利用されてきました。

油回転式真空ポンプの基本的な仕組みは、ケーシング内部で回転するローターと、ケーシングの間に油を満たすことで、気密性を高めることです。油は、ローターなどの回転部分の潤滑だけでなく、隙間を埋めて気体の逆流を防ぐシール材としても機能します。これにより、高い排気効率と安定した真空状態を得られます。

一方で、油を使用するため、定期的な油の交換や管理が必要です。また、油の蒸気などが真空環境に影響を与える可能性があるため、クリーンな環境が求められる用途には不向きな場合があります。

2-4. ターボ分子ポンプ

ターボ分子ポンプは、高速回転する動翼と静止した静翼を交互に配置した構造を持つ真空ポンプです。高速回転する動翼が気体分子に運動エネルギーを与え、下流へと送り出すことで排気を行います。

具体的には、吸気口から入ってきた気体分子は、高速回転する動翼の表面に衝突し、衝突によって、気体分子は運動量を受け取り、下段の静翼へと移動します。静翼は、気体分子の進行方向を整え、さらに下段の動翼へと導きます。この動翼と静翼の組み合わせが多段で繰り返されることで、気体分子は徐々に圧縮され、最終的に排気口から排出される仕組みです。

ターボ分子ポンプの大きな特徴は、油などの作動流体を使用しないため、油蒸気による汚染がなく、クリーンな超高真空を得られることです。また、気体分子を機械的に排気するため、さまざまな種類の気体に対してほぼ同じ排気速度を持ち、希ガスや腐食性ガスの排気も可能です。

2-5. ゲッターポンプ

ゲッターポンプは、特定の物質が気体分子を吸着する性質(ゲッター作用)を利用した真空ポンプです。特にチタンを用いたチタンゲッターポンプは、超高真空を得るために用いられます。従来の真空ポンプとは異なり、チタンを加熱・昇華させて活性な表面を生成し、気体分子を吸着することで排気を行う仕組みです。

チタンは、水素・酸素・窒素・一酸化炭素などの活性ガスを化学的に吸着する性質があります。チタンゲッターポンプでは、チタンのフィラメントを加熱し、蒸発させたチタンをポンプ内壁に蒸着させ、蒸着膜が気体分子を吸着することで、真空度を高めます。吸着面がガス分子で飽和しても、新たにチタンを蒸着することで吸着能力を再生させることが可能です。

ただし、アルゴン・ヘリウムなどの不活性ガスは吸着できないというデメリットもあります。そのため、他の真空ポンプと組み合わせて使用されることが一般的です。

2-6. クライオポンプ

クライオポンプは、極低温の表面を利用して気体分子を凝縮または吸着し、真空を作り出すポンプです。機械的な可動部分が少なく、油も使用しないため、クリーンな高真空を実現できます。

クライオポンプの基本原理は、気体分子が極低温面に触れると凝縮または吸着するという性質を利用しています。凝縮とは、気体が低温で液体または固体に変化する現象であり、吸着とは、気体分子が固体表面に付着する現象です。クライオポンプ内部には、ヘリウム冷凍機によって冷却された複数のクライオパネル(極低温面)が設置されています。クライオパネルは段階的に温度が異なり、それぞれ異なる種類の気体を効率的に捕捉する仕組みです。

一般的に、クライオポンプは2段式の冷凍機を使用しています。1段目は比較的高い温度(80K以下)で、主に水蒸気などの比較的凝縮しやすい気体を捕捉します。2段目はさらに低い温度で、窒素・酸素・アルゴンなどの気体や、水素・ヘリウム・ネオンなどの凝縮しにくい気体を吸着剤によって捕捉します。

3. 真空ポンプの選び方

真空ポンプを選ぶ際にチェックすべき項目は、主に以下の通りです。

排気速度
排気速度とは、単位時間あたりに排気できる気体の体積を表す指標で、単位はL/min(リットル毎分)で表されます。真空容器を目的の真空度まで短時間で排気したい場合は、排気速度が大きいポンプを選ぶ必要があります。

電源
真空ポンプの電源は、大きく分けてAC電源式と充電式の2種類があります。AC電源式とは、一般的な家庭用コンセントや工場などの電源から電力を供給する方式です。

真空到達速度
真空到達速度とは、真空ポンプが到達できる最終的な真空度を示す指標です。ミクロンで表されます。

ローターおよびモーターの仕様
真空ポンプのローターには、大きく分けてシングルステージ式・2ステージ式という2種類の方式があります。また、モーターの仕様においても、2ポールモーター・4ポールモーターの2種類があります。

まとめ

真空とは、大気圧よりも低い圧力の状態のことです。身の回りでは、食品の保存や電子機器の製造など、さまざまな分野で真空技術が活用されています。真空ポンプは、容器内部の気体を排出し、真空状態を作り出す装置です。さまざまな種類があり、それぞれ得意とする分野や用途が異なります。

真空ポンプを購入する際は、使用目的や必要な真空到達速度・排気速度・仕様などを考慮し、自社に合った最適なポンプを選びましょう。不明な点があれば、専門の業者に相談することをおすすめします。

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