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フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)とは?測定方法や原理も解説
赤外分光光度計(IR)は、試料内の有機化合物・無機化合物の構造解析や品質管理に役立つ装置であり、化学・製薬・環境科学などの幅広い分野で活用されています。
その中でも、「フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)」と呼ばれる装置は従来の赤外分光光度計に比べてデータの取得が高速かつ高精度で行える点が特徴です。
フーリエ変換赤外分光光度計で高精度な測定結果を得るためには、あらかじめ原理・方法を理解しておくことが重要となります。
そこで今回は、赤外分光光度計の概要や種類、さらにフーリエ変換赤外分光光度計のメリット・測定原理・測定方法についても詳しく解説します。
1. 赤外分光光度計とは?
赤外分光光度計(IR)の概要を深く理解するにあたって、「赤外分光法」の理解は欠かせません。
赤外分光法とは、赤外線を物質に照射して透過・反射した光を測定することによって、試料内の有機化合物・無機化合物の構造解析や定量分析を行う分析手法です。
紫外・可視光は物質の電子遷移にもとづき吸収される一方で、赤外光は電子遷移よりもエネルギーが小さい分子の振動・回転運動にもとづいて吸収されます。
赤外分光法は、赤外線が特定の分子振動を引き起こす際の吸収特性を利用し、分子の構造・組成を解析する手法です。分子の振動モードごとに異なる波長の赤外線が吸収され、得られた赤外吸収スペクトルにもとづき物質の構造や状態変化を解析できます。
そして赤外分光光度計は、赤外分光法を用いた測定試料内の有機化合物・無機化合物の構造解析や品質管理に役立つ装置です。赤外分光光度計を用いることで、化学組成や分子構造の分析が可能となり、材料や化合物の特性をより深く理解できるようになります。
1-1. 赤外分光光度計の種類
赤外分光光度計は、光学系の違いによって「分散型」と「フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)」の2種類に大きく分けられます。下記に、各赤外分光光度計の概要を説明します。
●分散型試料を透過した後の光を回折格子によって分散させ、順次検出器で各波長を検出する赤外分光光度計です。「分散型IR」とも呼ばれています。分散型赤外分光光度計はダブルビーム方式が一般的で、リアルタイムでバックグラウンド補正するなど、装置の仕組みは比較的シンプルとなっています。 ●フーリエ変換赤外分光光度計干渉計を使用し、非分散ですべての波長を同時に検出できる赤外分光光度計です。一つひとつの波長は「インターフェログラム」と呼ばれ、コンピューター上でこのインターフェログラムのフーリエ変換を行って成分を分析します。「FT-IR」「FTIR分光光度計」とも呼ばれます。 歴史としては分散型のほうが古いものの、汎用性の高さや操作の容易さから、現在ではフーリエ変換赤外分光光度計が主流となっています。 |
1‐2. フーリエ変換赤外分光光度計のメリット
フーリエ変換赤外分光光度計を利用するメリットは、下記の通りです。
●多波長を同時に検出できる干渉計を用いることによって多波長の赤外線を同時に照射・検出でき、分析時間の短縮化・データ収集の効率化につながります。 ●波数分解能が高い干渉計の光路差を広げることによって高い波数分解能を実現できており、異なる成分の識別・複雑な分子構造の特性解析も可能です。 ●測定波数域を拡張できる広範囲の波数域における測定や、異なる成分・材料に対応した柔軟な分析が可能です。 |
2. フーリエ変換赤外分光光度計の原理
「FT-IR」とも呼ばれるフーリエ変換赤外分光光度計は、赤外分光法にもとづいて物質の特性を細かに測定します。
赤外分光法は物質に赤外線を照射し、その物質が吸収した赤外線の波長と強度を測定することで、分子構造や化学結合の情報を得るという手法です。赤外線が特定の分子振動を引き起こす際の吸収特性を利用し、各波長における吸収強度を示す「IRスペクトル」を生成します。物質の構造的な特徴は、このIRスペクトルから特定可能です。
しかし、フーリエ変換赤外分光光度計は、一般的な赤外分光法が用いられた従来の赤外分光光度計とはやや異なる方法でFTIR分析を行います。
フーリエ変換赤外分光光度計は、赤外光源・干渉計・試料室・検出器によって構成されています。まずは干渉計を用いて物質に多波長の赤外線を照射・検出し、物質が吸収した波長のデータ(インターフェログラム)を取得した後、光の干渉パターンを数学的手法であるフーリエ変換を通して解析します。
フーリエ変換を経た解析データは、吸収ピークの示された赤外スペクトル(FTIRスペクトル)として生成・可視化されます。この赤外スペクトルによって、試料内の分子構造や化学成分の比率の解析が可能となります。
なお、フーリエ変換とは時間領域の信号、いわば多波長の複雑なインターフェログラムを周波数領域に変換することで、信号の周波数成分を解析する手法です。フーリエ変換を用いることによって、迅速かつ高精度な波数分解能を実現します。
3. フーリエ変換赤外分光光度計の測定方法
フーリエ変換赤外分光光度計では、さまざまな測定方法を用いて試料・サンプルの分析を行うことが可能です。
ここからは、フーリエ変換赤外分光光度計の主要な測定方法である「透過法」「反射法」「全反射法」「外部反射法」について、それぞれの概要・メリット・デメリットを詳しく説明します。
3-1. 透過法
透過法(透過測定法)とは、赤外線が試料を通過する際の透過量を測定する方法です。赤外線が試料を通過した後、「試料が吸収した赤外光の量」と「試料を通過した後に残る赤外光の量」を比較測定することで、試料内の分子構造や化学組成に関する情報を得られます。
主に液体や薄膜試料の分析に適しており、有機溶媒やポリマーなどの化学的特性を評価するのに用いられます。
非常に高い感度をもっており、低濃度の試料でも測定できる点がメリットです。一方で、厚みのある試料は光が十分に透過しないため正確な測定が困難になりやすい点や、液体試料は粘度や濁度の影響を受けることがある点がデメリットとなっています。
3‐2. 反射法
反射法(反射測定法)とは、試料に赤外光を照射したときの反射光量を測定する方法です。主に液体、塗料、薄膜、表面処理の評価や、固体試料の表面化学状態の解析に利用されます。
反射法のメリットは、液体や金属上の採取困難な異物など、ほかの分析法では困難な幅広い試料を非破壊で測定できる点です。しかし、試料表面の状態が影響を与えるため、単層でない試料の場合は内部構造に関する情報が得られにくいというデメリットもあります。
3‐3. 全反射法
全反射法(全反射測定法)とは、赤外光が試料と接触する界面ですべて反射する現象を利用した測定方法です。具体的には、プリズムに密着させた試料に赤外光を照射した後、赤外光の反射特性を測定する手法であり、「ATR法(ATR測定法)」とも呼ばれています。
主に、薄膜の分析や界面の物理化学的性質の評価に用いられており、特に固体表面に薄膜が付着している場合に効果的です。
1µm程度の試料表層部を非破壊で分析でき、少量の試料でも測定できるというメリットがある一方で、特定の角度での測定が必要で装置のセッティングに手間や時間がかかる点や、測定できる試料に限りがある点がデメリットとなっています。
3‐4. 外部反射法
外部反射法(外部反射測定法)とは、試料と空気の界面で反射せずに透過した赤外光を利用する測定方法です。具体的には、試料表面に照射され、反射した一部の赤外光を測定することで試料の表面特性や組成を分析します。
主に、透過法や全反射法では分析が困難または不可能な物質の測定・評価に用いられます。
入射角によって吸収スペクトルの形状・強度・符号まで変化する点が特徴で、特に符号は分子吸着種における官能基の配向を反映するため、大きな利用価値があると言えるでしょう。しかし、非金属上での反射率は非常に低く、場合によってはほかの測定方法に比べて精度が劣る可能性がある点や、構造解析には不向きな点に注意が必要です。
まとめ
フーリエ変換赤外分光光度計とは、赤外分光法を利用して物質の分析を行う分析装置です。「FT-IR」とも呼ばれており、従来の赤外光光度計と違って干渉計を使用する点や干渉計によって多波長を同時に検出できる点が特徴となっています。
フーリエ変換赤外分光光度計では、さまざまな測定法を用いて物質の分析を行います。各測定手法にはそれぞれメリット・デメリットがあり、目的・用途に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。
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