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電子顕微鏡の周辺機器には何がある?利用シーン別に機器を紹介

電子顕微鏡は微細な構造を観察するために欠かせない機器ですが、その性能を最大限に発揮するには周辺機器が不可欠です。しかし、一口に「周辺機器」といっても多種多様で、それぞれの役割や用途を理解するのは難しいと感じるかもしれません。
「より高精度な観察をしたい」「目的に合った周辺機器を選びたい」と考えている方のために、この記事では電子顕微鏡の周辺機器について分かりやすく解説します。電子顕微鏡を使用する研究者、技術者、製造や開発現場の担当者の方は必見です。
1. 電子顕微鏡の試料加工に役立つ周辺機器
電子顕微鏡で試料を観察するためには、試料を適切な状態に加工する必要があります。ここでは、電子顕微鏡の試料加工に役立つ周辺機器として、イオンミリング装置とスパッタ装置、クライオSEMシステム、プラズマクリーナーについて解説します。
1-1. イオンミリング装置
イオンミリング装置は、アルゴンなどの希ガスをイオン化し、そのイオンビームを試料に照射することで、試料表面や断面を原子レベルで精密に研磨・加工する装置です。
機械的な研磨が難しい脆性材料や複合材料の薄片化、多層膜の断面観察、特定部位の選択的除去などに広く利用されています。例えば、半導体デバイスの微細構造解析では、特定の配線層や界面を露出させるために不可欠です。また、金属材料やセラミックスの結晶粒界や欠陥を観察するための断面作製にも応用されています。
1-2. スパッタ装置
スパッタ装置は、真空中でアルゴンなどの不活性ガスを放電し、生成されたイオンをターゲット(金属材料)に衝突させることで、ターゲットの原子を叩き出し、試料表面に薄膜を成膜する装置です。
電子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡(SEM)観察では、絶縁性の試料が電子ビーム照射によって帯電し、鮮明な像を得にくくなります。そのため、スパッタ装置を用いて金や白金などの導電性材料を薄くコーティングし、帯電を防ぐことで、二次電子の放出を促進し、高画質のSEM像を得ることができます。
比較的簡便な操作で短時間に均一な薄膜を形成できるため、多くの研究室や分析機関で広く利用されています。
1-3. クライオSEMシステム
クライオSEMシステムは、試料を急速凍結し、その凍結状態のまま電子顕微鏡で観察するためのシステムです。
従来の化学固定や乾燥などの前処理では、生体試料など含水率の高い試料の形態が大きく変化する可能性があります。クライオSEMシステムを用いることで、試料をほぼ自然に近い状態で観察でき、生体組織の微細構造や細胞内オルガネラ、食品中の氷結晶の形成過程などを詳細に観察することが可能です。
1-4. プラズマクリーナー
プラズマクリーナーは、低真空下でガスを放電させ、生成されたプラズマを利用して試料表面やTEMホルダーに付着した有機物などの汚染物質を除去する装置です。
電子顕微鏡観察、特に透過電子顕微鏡(TEM)観察においては、試料やホルダーの微細な汚れが像のコントラスト低下や分析精度の悪化を招くことがあります。プラズマクリーナーを用いることで、これらの汚染物質を効果的に除去し、クリアな像を得ることが可能になります。
2. 電子顕微鏡での試料操作に役立つ周辺機器
試料を微細なスケールで正確に動かしたり、特定の箇所にアクセスしたりするための周辺機器は、高度な分析や実験を行う上で不可欠なツールです。
電子顕微鏡での試料操作に役立つ周辺機器の例は以下の通りです。
2-1. マイクロマニピュレータ
マイクロマニピュレータは、電子顕微鏡の真空チャンバー内で、試料や探針を精密に操作するための装置です。ナノスケールの微細構造を持つ試料に対し、特定の場所にプローブを接触させて電気特性を測定したり、局所的な加工や微小粒子のピックアップ・移動を行ったりするなど、多様な応用が可能です。
例えば、ナノテクノロジー分野では、カーボンナノチューブの電気特性評価やナノ粒子の組み立てなどに利用されています。
2-2. ピエゾステージ
ピエゾステージは、圧電素子の特性を利用し、試料をナノメートルまたはサブナノメートル精度で高速かつ精密に移動させる装置です。
電子顕微鏡では、高分解能の像取得や自動粒子解析、走査プローブ顕微鏡(SPM)との連携など、高精度な位置決めが求められる場面で活用されます。例えば、材料科学分野の原子分解能TEM観察や、製薬分野の微粒子自動探索に利用されています。
3. 電子顕微鏡の観察に役立つ周辺機器
電子顕微鏡の性能を最大限に引き出し、得られる情報をより豊かにするために、さまざまな観察用周辺機器が存在します。これらの機器は、試料の画像を記録したり、局所的な物性を評価したり、特殊な検出器を用いて組成情報を取得したりするなど、電子顕微鏡による観察・分析の幅を大きく広げる役割を果たしています。
以下では、電子顕微鏡の観察に役立つ周辺機器の例を紹介します。
3-1. 電子顕微鏡用デジタルカメラ
電子顕微鏡用デジタルカメラは、従来のフィルムカメラに代わり、電子顕微鏡で観察された像をデジタルデータとして記録するための装置です。高解像度・高感度・高速撮影といった特性を持ち、観察中の像をリアルタイムにモニタリングしながら、必要な画像を瞬時に取得できます。
CCDカメラやCMOSカメラなど、さまざまな種類のデジタルカメラが用途に応じて使い分けられています。静止画の記録だけでなく、動画撮影が可能なモデルもあり、試料のダイナミックな挙動を捉えることも可能です。
3-2. ナノインデンター
ナノインデンターは、非常に微細な圧子(インデンター)を試料表面に押し込み、その際の荷重と深さを精密に測定することで、ナノスケールにおける材料の硬さ・弾性率などの機械的特性を評価する装置です。走査電子顕微鏡に搭載可能なモデルもあり、圧痕形成の様子をその場で観察しながら測定を行えます。
薄膜材料やコーティング材、微小領域の機械的特性評価など、幅広い分野で利用されています。
3-3. TEMホルダー保管装置
透過電子顕微鏡で使用される試料ホルダーは、非常に精密でデリケートな部品であり、わずかな傷や汚れが観察に影響を与える可能性があります。TEMホルダー保管装置は、これらのホルダーを安全かつ清潔な状態で保管するための専用の容器です。
真空環境や不活性ガス雰囲気下で保管できるものもあり、ホルダーの酸化や汚染を防ぎ、常に最適な状態で使用できるように設計されています。TEM試料の作製には時間と手間がかかることが多いため、ホルダーの適切な保管は、実験の信頼性を高める上で非常に重要です。
3-4. 反射電子検出器
反射電子検出器は、電子ビームを試料へ照射し、試料内部で散乱して再び表面から放出される反射電子を検出する装置です。反射電子の放出量は試料の構成元素の原子番号に依存するため、組成コントラスト像を得ることができます。
二次電子像が表面の微細形状の観察に適しているのに対し、反射電子像は異なる組成の領域を識別したり、埋もれた構造を観察したりするのに有効です。材料科学・地質学・金属学など、さまざまな分野で試料の組成分析に活用されています。
まとめ
電子顕微鏡の周辺機器は、試料の加工・操作・観察など、分析のあらゆる段階で活用されます。
例えば、試料加工では、イオンミリング装置による精密な断面作製、スパッタ装置による導電性付与、クライオSEMシステムによる生体試料の観察、プラズマクリーナーによる汚染除去が可能です。観察では、電子顕微鏡用デジタルカメラによる高画質記録、ナノインデンターによる局所的な機械特性評価、TEMホルダー保管装置による試料ホルダーの保護、反射電子検出器による組成情報の取得など、多様な機能が利用できます。
適切な周辺機器を選び活用することで、電子顕微鏡の性能を最大限に引き出し、より詳細な科学的知見を得られるでしょう。
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