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粉じん計とは?測定が必要な理由や原理・用途を丁寧に解説
製造業や建設業など、粉じんが発生しやすい作業環境の業種において、粉じん対策は労働災害防止と企業責任の観点から極めて重要な課題です。粉じんの長期間の曝露は、じん肺をはじめとする呼吸器系の疾患を引き起こすリスクを高めます。このようなリスクを管理し、従業員の安全と健康を守るために不可欠なのが「粉じん計」です。
この記事では、粉じん計の基礎知識から、粉じんの測定が必要な理由、粉じん計の測定原理、具体的な用途まで、企業の担当者様向けに丁寧に解説します。
1. 【基礎知識】粉じん計とは?
粉じん計とは、空気中に浮遊する土石・金属・鉱物・炭素などの粉じん濃度を測定する機器です。作業環境における粉じんの状況を把握するために用いられます。
作業環境測定法施行規則第2条では、デジタル粉じん計やろ紙じんあい計など、粉じん測定に用いられる機器の一部が「二」に該当するとして定義されています。
(法第二条第六号の厚生労働省令で定める機器) 第二条 作業環境測定法(以下「法」という。)第二条第六号の厚生労働省令で定める機器は、次に掲げる機器(以下「簡易測定機器」という。)以外の機器とする。 一 検知管方式によりガス若しくは蒸気の濃度を測定する機器又はこれと同等以上の性能を有する機器 二 グラスファイバーろ紙(〇・三マイクロメートルのステアリン酸粒子を九九・九パーセント以上捕集する性能を有するものに限る。)を装着して相対沈降径がおおむね一〇マイクロメートル以下の浮遊粉じんを重量法により測定する機器を標準として較正された浮遊粉じんの重量を測定する機器 三 その他厚生労働大臣が定める機器 |
(引用:e-Gov法令検索「作業環境測定法施行規則」
/https://laws.e-gov.go.jp/law/350M50002000020 /引用日2025/01/16)
2. 粉じん計が必要な理由|粉じん計の用途
粉じん計が必要とされるのは「法令で粉じん濃度の測定が義務付けられている」「粉じんによる健康被害を防ぐ必要がある」という2つの理由が挙げられます。
ここでは、粉じん計の必要性を通し、その用途について説明します。
2-1. 法令で粉じん濃度の測定が決められている
以下のような法令によって、粉じん濃度の測定が義務付けられています。
労働安全衛生法施行令第21条 作業環境測定を実施しなければならない作業場の1つとして、「粉じんを著しく発散する屋内作業場」が規定されています。粉じんが作業者の健康に重大な影響を及ぼす恐れがあるため、粉じんの発生状況を把握し、適切な対策を講じる必要性があることを示しています。 作業環境測定基準第2条 作業環境測定基準の第2条では、粉じんの濃度の測定方法が具体的に定められており、相対濃度の測定器として粉じん計が該当することが明記されています。 粉じん障害防止規則 じん肺をはじめとする粉じんの健康障害を防止するために、粉じん濃度の測定や、測定結果に基づいた適切な措置の実施などが定められています。具体的には、粉じんの発散源への対策、作業方法の改善、呼吸用保護具の使用などが規定されています。 |
2-2. 粉じんによる健康被害を防ぐ必要がある
前述の法令が定められている背景には、粉じんが人体に及ぼす深刻な健康被害を防ぐという目的があります。
粉じんとは、大気中に浮遊する微細な固形粒子のことです。土石・岩石・鉱物・金属・炭素など、さまざまな物質が粉じんとなり得ます。特に問題となるのは、これらの粉じんを長期間にわたって吸入することで引き起こされる健康障害です。
代表的な疾患が「じん肺」です。じん肺とは、肺に粉じんが沈着し、肺組織が線維化することで呼吸機能が低下する疾患です。進行すると呼吸困難などの重篤な症状を引き起こし、日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、最悪の場合は死に至ることもあります。じん肺は一度発症すると完全に治癒するのが難しいため、予防が非常に重要です。
このような健康被害を防ぐために、労働安全衛生法などの法令に基づき、粉じんを著しく発散する作業場では作業環境測定が義務付けられています。また、喫煙によって発生するタバコの煙は、微細な粒子状物質を含んでおり、これも粉じんの一種と考えられています。そのため、喫煙対策の効果の把握・維持管理においても、粉じんの濃度測定が行われています。
3. 粉じん計の原理・仕様
粉じん計は、測定原理によっていくつかの方式に分類されます。ここでは、代表的な方式である、光散乱方式・光吸収方式・電圧天秤方式の3つについて詳しく解説します。それぞれに特徴があるため、測定対象や用途に応じて適切な粉じん計を選択しましょう。
3-1. 光散乱方式
光散乱方式は、空気中に浮遊する粉じんに光を照射し、その粉じんによって散乱される光の強度を測定することで、粉じん濃度を算出する方式です。
光散乱方式の仕組み |
---|
・粉じん計の吸引口から空気を吸引し、測定部に導入します。 ・測定部では、レーザー光などの光源から発せられた光が、空気中の粉じんに照射されます。 ・粉じんに当たった光は、さまざまな方向に散乱します。 ・散乱光を光検出器で捉え、その強度を電気信号に変換します。 ・散乱光の強度は粉じんの量に比例するため、この電気信号の強さを測定することで、相対的な粉じん濃度を把握できます。 |
光散乱方式の特徴としては、高感度であり、比較的広範囲の粉じん濃度を測定できる点が挙げられます。また、迅速に測定できるため、リアルタイムで濃度変化を把握するのに適しています。
3-2. 光吸収方式
光吸収方式は、ろ紙などの捕集媒体に粉じんを捕集し、その粉じんによって減少する光の透過率を測定することで、粉じん濃度を算出する方式です。
光吸収方式の仕組み |
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・一定量の空気を吸引し、ろ紙などの捕集媒体に粉じんを捕集します。 ・その後、光源から発せられた光を捕集媒体に照射し、透過する光の強度を測定します。 ・粉じんが多ければ多いほど、透過する光の強度は弱くなります。 ・光の透過率の変化を測定することで、粉じん濃度を算出します。β線吸収方式もこの光吸収方式の一種です。 |
光吸収方式の特徴としては、比較的簡単に測定できる点が挙げられます。ただし、測定に時間がかかる場合があり、リアルタイムで濃度変化を把握するのには不向きです。
3-3. 電圧天秤方式
電圧天秤方式は、電圧結晶板の振動周波数の変化を利用して粉じん濃度を測定する方式です。
電圧天秤方式の仕組み |
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・電圧結晶板は一定の周波数で振動していますが、その表面に粉じんが捕集されると結晶板の質量が変化し、振動周波数も変化します。 ・この周波数の変化量は、捕集された粉じんの質量に比例するため、周波数の変化を測定することで、粉じん濃度を算出できます。 |
電圧天秤方式の特徴としては、微量な粉じんの測定に適している点が挙げられます。また、リアルタイムでの測定も可能です。ただし、湿度や温度の影響を受けやすいというデメリットがあります。
4. 粉じん計に関するQ&A
粉じん計の単位や測定方法などについて疑問を持つ方もいるでしょう。以下では、粉じん計についてよくある質問を3つ取り上げて回答します。
4-1. 粉じんで使われる単位は?
粉じん濃度を表す際には、主にmg/m³(ミリグラム毎立方メートル)とcpm(カウント毎分)という単位が用いられます。mg/m³は質量濃度と呼ばれる単位で、空気1立方メートル中に含まれる粉じんの質量をミリグラム(mg)で表した単位です。cpmは、光散乱方式の粉じん計で測定される際に用いられる単位で、1分間あたりの粉じんのカウント数です。
光散乱方式の粉じん計は、粉じんそのものの質量を直接測定しているわけではなく、粉じんに光を照射した際に発生する散乱光の強度を測定し、その強度をカウント数として表示しています。そのため、cpmはあくまで相対的な濃度を示す指標です。
4-2. K値(質量濃度変換係数)とは?
cpmで測定された値を質量濃度であるmg/m³に変換するためには、「K値(質量濃度変換係数)」と呼ばれる係数を使用する必要があります。K値とは、光散乱方式の粉じん計で得られた測定値(cpm)を、質量濃度(mg/m³)に変換するために用いられる係数です。cpmとmg/m³は、直線的な比例関係が成り立つことが分かっており、この比例直線の傾きがK値です。
4-3. 粉じん計とパーティクルカウンターの違いは?
粉じん計とパーティクルカウンターは、どちらも空気中の微粒子を測定する機器ですが、測定対象や測定方法などが異なります。
粉じん計 | パーティクルカウンター | |
---|---|---|
測定対象 | 空気中に浮遊する粉じんの「質量濃度」を測定します。 | 空気中に浮遊する微粒子の「個数」と「粒子径」を測定します。 |
測定方法 | 主に光散乱方式を用いており、粉じんに光を照射し、その散乱光の強度を測定することで、相対的な質量濃度を算出します。 | 光散乱方式を基本としていますが、個々の粒子が光を散乱する際に発生する信号を個別に検出し、その信号の強度から粒子径を、信号の回数から個数を測定します。 |
粉じん計は特に建設現場や鉱山など、粉じんが発生しやすい作業環境において粉じん濃度をモニタリングし、労働者の健康を守るために用いられます。一方、パーティクルカウンターは、クリーンルームや手術室など、高度な清浄度が求められる環境で使用されるのが特徴です。
(内部リンク:「パーティクルカウンターとは」)
まとめ
粉じん計は、粉じんの濃度を測定する機器です。粉じん計が必要とされる理由は「法令で粉じん濃度の測定が義務付けられている」「粉じんによる健康被害を防ぐ必要がある」の大きく2つが挙げられます。
労働安全衛生法施行令や作業環境測定基準、粉じん障害防止規則などにより、特定の作業場では粉じん濃度の定期的な測定が義務付けられています。粉じん計の適切な使用と管理により、作業場の安全性が大きく向上すれば、健康被害の予防に寄与するでしょう。
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