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安全キャビネットとは?クラス分類やクリーンベンチとの違いも解説
微生物など生物材料の中には、感染性を持つものも存在します。そうした危険のある生物材料の研究・検査をする際は、外部への漏えいはもちろん、作業者への感染を防ぐ必要があります。感染抑制や異物混入防止を目的とした装置が、安全キャビネットです。
当記事では、安全キャビネットの概要やクラス分類、クリーンベンチ・ドラフトチャンバーとの違いについて解説します。大学や研究所などで安心して生物材料を取り扱えるように、安全キャビネットの基礎知識を身に付けておきましょう。
目次 1. 安全キャビネットとは? 2. 安全キャビネットの種類 2-1. クラスI 2-2. クラスII 2-3. クラスIII 3. 安全キャビネットとクリーンベンチの違い 3-1. 使用の目的 3-2. 空気の流れ 4. 安全キャビネットとドラフトチャンバーの違い まとめ |
1. 安全キャビネットとは?
安全キャビネットとは、病原体や遺伝子組み換え生物などのバイオハザードを封じ込め、作業の安全性を確保するための箱状の設備です。「バイオハザード対策用キャビネット」と呼ばれることもあります。
安全キャビネットは、組み換えDNA実験の研究における安全確保を目的に40年以上前に規格化されました。現在では、病原菌の取り扱い時やがんウイルス研究時などの必需品として認知されています。安全キャビネットの構造には、使用する生物や物質によって開放系・閉鎖系などのタイプが存在します。
2. 安全キャビネットの種類
安全キャビネットは、クラスI~クラスIIIまで分類があり、クラスIIはJISではさらに4種類に分かれます。ここからは、クラス別の構造や対象病原体などを解説しますので、大学や研究所に必要な安全キャビネットのタイプを検討しましょう。
2-1. クラスI
クラスIの安全キャビネットは、換気型の構造に分類されます。前面開口部から空気を取り込んでキャビネット内部に浮遊する汚染物質の排出を防ぎ、非循環式の気流によって研究作業者から汚染物質を遠ざけるのが特徴です。
ただし、クラスIの安全キャビネットは室内空気を直接取り込むことからキャビネット内を無菌状態に保つことはできず、研究サンプルを汚染から保護する効果は期待できません。したがって、病理研究や遺伝子組み換え生物の研究などには不向きですが、特に菌の抑制操作が必要ない実験や研究に適しています。
2-2. クラスII
クラスIIの安全キャビネットも換気型の構造で、HEPAフィルターから下面に吹き出す気流でバリアを作って試料を保護し、ろ過・減菌された排気で作業環境を守る仕組みです。作業者への感染抑制に加えてキャビネット内部への異物混入を防げる点で、クラスIとは異なります。
クラスIIの安全キャビネットは、作業の目的によって以下の4種類に分類されます。
・クラスIIA1 HEPAフィルターでろ過された空気を室内に循環させるか、キャノピーを使って外部に排気することが可能です。生物材料や不揮発性の有害物質を扱う作業に適しています。ただし、揮発性の有害物質や放射性核種を含む試料など、危険な調剤の無菌操作にはあまり適していません。 ・クラスIIA2 A1と同様、HEPAフィルターによってろ過した空気を循環させるか、キャノピーによる外部排出が可能です。生物材料や不揮発性の有害物質、微量の有害化学物質による処理が施されたバイオ試料のほか、吹き出し空気を循環させて問題がない場合は微量の放射性核種トレーサーも扱えます。室内換気が基本ですが、少量の揮発性有害物質を取り扱う場合は、キャノピーを接続して室外排気を行います。 ・クラスIIB1 密閉式のダクトに接続し、室外排気を行います。汚染された吹き出し空気のほとんどは外部へ排気されるため、空気中に循環できない、微量の化学物質や放射性核種を扱う作業にも対応することが可能です。バイオ試料だけではなく、ガス状や揮発性有害物質を相当量取り扱う作業にも適しています。 ・クラスIIB2 HEPAフィルターでろ過された流入空気と吹き出し空気はすべて外部に排気されることから、「全排気型」「100%排気型」と言われることもあります。汚染された排気がキャビネット内や作業室内を循環しないため、バイオ試料や揮発性有害物質のほか、化学物質や放射性核種を扱う作業でも活用されています。 |
2-3. クラスIII
クラスIIIは、開口部がない閉鎖型の安全キャビネットで、完全に外気を遮断した密閉装置です。庫内で作業するためのグローブが付属していることから、グローブボックスと呼ばれる場合もあります。排気の処理については、二重のHEPAフィルターでろ過する方法と、HEPAフィルターでろ過した後に焼却する方法があります。
漏えいを防ぐ構造によって操作性は制限されるものの、安全に対する信頼性が高いため、一種病原体をはじめとする危険な試料も取り扱い可能です。例えば、エボラウイルスや黄熱病ウイルスなどを扱う作業にも使われています。
3. 安全キャビネットとクリーンベンチの違い
実験室や研究所などで使われる「安全キャビネット」と「クリーンベンチ」は混同されることもありますが、実際には保護対象や気流が異なるため注意が必要です。ここからは、両者の使用目的や空気の流れに着目し、安全キャビネットとクリーンベンチの違いを解説します。
3-1. 使用の目的
安全キャビネットは、外部からの異物混入防止に加え、作業者への感染を防ぐ用途で使われる設備です。例えば、クラスIIの安全キャビネットを導入することで、作業者・環境・試料の相互汚染に加えて、サンプル同士の感染も防止できます。
一方、クリーンベンチは外部からの異物混入防止のみを目的としているのが特徴です。あくまでも無菌環境で試料を取り扱うケースを想定して設計されているため、クリーンベンチで感染性の物質や揮発性の化学物質を使用すると、作業者に健康被害が生じる恐れがあります。
3-2. 空気の流れ
安全キャビネットでは、HEPAフィルターでろ過した空気を庫内上部から作業スペースへ送り、キャビネット内を保護します。さらに、開放構造の安全キャビネットは、作業用開口部の内外に障壁となるような気流を発生させるのが特徴です。
クリーンベンチも安全キャビネットと同様、HEPAフィルターでろ過処理した空気を庫内へ吹き出す仕組みです。ただし、クリーンベンチはろ過された空気がキャビネットの背面や上部から作業面を通して流れる点で、安全キャビネットとは異なります。
4. 安全キャビネットとドラフトチャンバーの違い
安全キャビネットやクリーンベンチのように、研究現場で使われる装置として知られているのが、ドラフトチャンバーです。実験や研究で使用する、酸・アルカリ・有機溶媒などの薬品を安全に扱うための装置で、労働安全衛生法上の局所排気装置として設置が義務付けられています。
安全キャビネットと違い、ドラフトチャンバーにはHEPAフィルターがなく、スクラバーを搭載して排気ファンの設置とダクト接続が必要となる点が特徴です。そのため、水道やガスなどの配管を通した大型の構造が多くなっています。
まとめ
安全キャビネットとは、感染性のある生物材料を取り扱う際にバイオハザードを封じ込め、作業者の安全を確保するための装置のことです。構造や対象病原体によってクラスが分かれており、それぞれ空気の循環のさせ方などが異なるため、生物材料などに応じて適切なクラスを選ぶ必要があります。
また、安全キャビネットはクリーンベンチやドラフトチャンバーと混同されることもありますが、使用目的などが異なります。各装置の違いを踏まえた上で、実験や研究に適切な設備を検討してみてください。
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