COLUMN製品コラム
分光蛍光光度計とは?原理や特徴・使い方・分光光度計の違い
分光蛍光光度計の主な特徴は、高感度でさまざまなサンプルを解析できることです。分光蛍光光度計を使うことで、蛍光の有無や目的物質の有無・濃度、最適な励起波長・蛍光波長、量子収率、発光色などが分かります。環境検査や食品分析の分野でも、分光蛍光光度計は不純物や有害物質の検出に欠かせない装置の1つです。
この記事では、分光蛍光光度計の基本的な原理・特徴や分光光度計との違い、それぞれの利点について詳しく解説します。
目次 1. 【基礎】分光蛍光光度計とは? 1-1. 蛍光現象の仕組み 1-2. 分光蛍光光度計の原理 1-3. 分光蛍光光度計の特徴 2. 分光蛍光光度計と分光光度計の違い 3. 分光蛍光光度計の応用例 3-1. 生化学・ライフサイエンス 3-2. 工業材料・マテリアル 3-3. 環境 3-4. 食品 |
1. 【基礎】分光蛍光光度計とは?
分光蛍光光度計は、物質が発する蛍光を測定することで、濃度や特有のスペクトルを解析するための装置です。蛍光とは、特定の波長の光を吸収した物質が、そのエネルギーを光として放出する現象であり、紫外線や可視光が励起光として使用されます。
分光蛍光光度計では、励起スペクトルと蛍光スペクトルの分析を通じて、最適な励起波長や蛍光波長を特定できます。蛍光物質の有無や濃度、その周囲の環境(pHや温度、溶媒の種類)についても情報を得ることが可能です。
1-1. 蛍光現象の仕組み
蛍光現象は、物質が特定のエネルギーを吸収した後に光を放出する現象であり、フォトルミネッセンスの一種です。分子に光を照射すると、分子はそのエネルギーを吸収し、通常は安定した基底状態から不安定な励起状態に移動します。励起状態の分子はエネルギーを放出して基底状態に戻る際、光子を放出します。このとき、放出される光のエネルギーは吸収したエネルギーよりも低くなるため、波長は長くなります。この現象はストークスの法則として知られています。
蛍光には励起一重項状態と励起三重項状態の2つの状態があり、前者ではスピンの状態が変わらず、放出される光は蛍光と呼ばれます。一方、三重項状態ではスピンが反転するため、放出される光はりん光と呼ばれ、一般的に蛍光よりも長い時間をかけて放出されます。蛍光の寿命はナノ秒オーダーであるのに対し、りん光はマイクロ秒からミリ秒オーダーに及びます。
蛍光灯や蛍光ペンなど、日常的なものにも蛍光は見られ、化学や工業の分野でも広く利用されています。分光蛍光光度計を用いることで、蛍光の強度や波長を精密に測定し、定量分析や特性の把握に役立てることが可能です。
1-2. 分光蛍光光度計の原理
分光蛍光光度計は、蛍光を利用した分析機器で、試料中の物質の特性を明らかにするために用いられます。分光蛍光光度計の基本的な構成は、光源、モノクロメーター、試料セル、検出器などです。光源から発せられた白色光は、励起側モノクロメーターで特定の波長の単色光に分光され、試料に照射されます。試料がこの光を吸収すると、蛍光を発します。蛍光は、90度の方向で検出されることが一般的で、蛍光側のモノクロメーターを通過して特定の波長に分光されます。
蛍光強度の測定においては、励起光強度に基づいた比演算方式が使用され、これにより光源の不安定さや励起側の特性をキャンセルすることが可能です。ノイズ対比(S/N)が改善され、より信頼性の高いデータが得られます。一般に使用される光源としては、紫外線から近赤外線までの広い波長範囲を持つキセノンランプが挙げられます。
試料セルの材質にはホウケイ酸ガラスや石英ガラスがあり、特に紫外線励起分析では石英ガラスが選ばれます。
1-3. 分光蛍光光度計の特徴
分光蛍光光度計は、蛍光分析に特化した高感度かつ高選択性の分析装置です。蛍光分析は、光源から発せられた光が試料によって励起され、その結果として放出される蛍光を検出する仕組みです。吸光分析よりも高い感度であり、特に微量の成分を分析する際に優れています。
蛍光を発する分子は限られており、さらに励起波長と蛍光波長が一致する物質はごく少数です。そのため、蛍光分析は対象物質に対して非常に高い選択性を持ち、特異的に蛍光を発するプローブを用いることで、さまざまな環境条件を考慮した定量分析が可能となります。
また、蛍光スペクトルは周囲の条件(溶液のpH、温度、溶媒の種類など)に影響を受けるため、これらの性質を探る手段としても利用されます。分光蛍光光度計を使用することで、励起スペクトルや蛍光スペクトルの測定が可能になり、三次元蛍光スペクトルを通じて蛍光物質の詳細な特性を把握することができます。
2. 分光蛍光光度計と分光光度計の違い
分光蛍光光度計と分光光度計の違いは、主に以下の通りです。
分光蛍光光度計 | 分光光度計 | |
---|---|---|
測定原理 | 蛍光法を使用する物質が発する蛍光を測定する照射光と蛍光は異なる波長になる | 吸光光度法を使用する物質に照射された光の吸収を測定する照射した光の強度と透過率を比較して吸収量を求める |
感度 | 吸光光度法の約1,000倍の感度を持つ蛍光を直接測定するため、低濃度の物質でも存在を判別しやすい | 感度が比較的低い吸収された光の量を基に測定するため、低濃度の物質の検出が難しい測定にはブランクとの吸光度の差を必要とし、誤差が大きくなる場合がある |
用途 | 特定の物質の測定に特化している場合が多く、価格が高いため市場規模は小さい蛍光を発しない物質は測定が難しい | 汎用性が高く、さまざまな物質の測定に適している市場規模が大きい |
簡単にまとめると、分光蛍光光度計は蛍光を測定し、高感度で特定の成分を検出することが可能ですが、適用範囲がやや限られます。分光光度計は、主に吸収を測定し、広い用途で使われます。
3. 分光蛍光光度計の応用例
分光蛍光光度計は、その高感度な測定能力から、さまざまな分野で活用されています。以下では、生化学・ライフサイエンス、工業材料・マテリアル、環境、食品の4つのジャンルに分けて、具体的な応用例を解説します。
3-1. 生化学・ライフサイエンス
分光蛍光光度計は、タンパク質や核酸の研究において重要な装置の1つです。
特に、タンパク質の熱変性評価においては、紫外線により励起される芳香族アミノ酸(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン)の蛍光を利用します。これにより、変性剤や温度の影響を受けたタンパク質のフォールディングやリフォールディングの状態、さらには他の分子との相互作用を評価できます。
さらに、蛍光異方性測定は、タンパク質や核酸の結合状態や立体構造の変化を観察する手法として、イムノアッセイやバインディングアッセイに応用されています。
3-2. 工業材料・マテリアル
工業分野においては、分光蛍光光度計は主に蛍光体の評価や新材料の開発に利用されています。アップコンバージョン蛍光体は、近赤外光を可視光に変換する能力があり、これを活用することで太陽電池の発電効率を向上させる研究が進められています。
また、LED照明の発光効率を評価するために、白色LEDに用いられる蛍光体の内部量子効率測定も行われています。
3-3. 環境
環境分析の分野では、分光蛍光光度計を用いた多成分解析が進められています。特に、河川や湖の水質分析では、3D蛍光データと多変量解析手法(PARAFAC)を組み合わせることで、さまざまな成分の識別と定量が可能です。
さらに、環境水中に添加されるクマリンなどの識別剤を用いて、不正使用の監視や環境保護に貢献する技術も開発されています。
3-4. 食品
食品分野において、分光蛍光光度計は品質管理や成分分析に役立っています。
例えば、パイナップル製品の分類や粉ミルクの異同識別には、3次元蛍光測定(蛍光指紋)を利用した多変量解析が行われています。また、牛乳や卵の蛍光スペクトルを用いた自家蛍光測定も、洗浄確認や品質チェックのために行われています。
まとめ
分光蛍光光度計は、物質が励起された際に発生する蛍光を測定するための装置です。物質が特定の波長の光を吸収した後、異なる波長の光を放出する現象を利用しています。分光蛍光光度計はライフサイエンスや食品分析、材料科学など多岐にわたる分野で使用されており、得られたデータを解析することで新たな知見の発見につながっています。
アズサイエンス株式会社では、分光蛍光光度計も取り扱っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
関連コラム
関連する機器
PAGE
TOP