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リタデーション測定装置とは?基礎知識から測定技術・装置まで解説

リタデーションは、異方性材料と光の相互作用によって生じる基本的な特性であり、通過する光の偏光状態に影響を与える現象です。

リタデーション測定は、材料科学、光学エンジニアリング、品質管理など、多岐にわたる分野で行われています。特に、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)、光通信などの高度な技術分野では、光学フィルムやコンポーネントの性能を確保するために、リタデーションの精密かつ正確な測定が不可欠です。

この記事では、リタデーション測定装置について分かりやすく解説します。

目次

1. リタデーションの基礎知識
1-1. 偏光・偏光子とは
1-2. 光の複屈折とリタデーション

2. リタデーション測定の技術
2-1. リタデーション測定の基本原理
2-2. リタデーション測定の方法

3. リタデーション測定装置 RETS-100nxとは?
3-1. リタデーション測定装置 RETS-100nxの特長
3-2. リタデーション測定装置 RETS-100nxの仕様

まとめ

1. リタデーションの基礎知識

リタデーションとは、複屈折性物質を通過することで生じる、光の偏光状態の変化量を示す値です。複屈折性物質とは、光の進む速さ(屈折率)が方向によって異なる物質のことです。液晶ディスプレイの偏光板や位相差フィルム、メガネのレンズ、光ファイバーなどがその例として挙げられます。

1-1. 偏光・偏光子とは

光は波としての性質を持ち、振動方向は進行方向に対して垂直な面内に存在します。この振動の方向が一方向に偏っている状態を偏光と呼びます。自然光のように、あらゆる方向に振動する光とは異なり、偏光は特定の振動方向を持つ光のみで構成されています。

偏光にはいくつかの種類があります。

直線偏光
光の振動が単一の平面内で行われる状態。

円偏光
互いに直交する2つの直線偏光成分が同じ振幅で、位相が90度ずれて合成された状態。

楕円偏光
2つの直交する直線偏光成分の振幅が異なるか、位相差が0度または90度以外の場合に生じる状態。

太陽光や蛍光灯などの一般的な光源から発せられる光は、通常、あらゆる方向に振動する無偏光の状態です。
偏光子とは、光の「偏光」という性質を利用し、偏光だけを透過させる光学素子のことです。偏光子は、液晶ディスプレイや偏光サングラス、光学測定、写真撮影など、さまざまな分野で応用されています。

1-2. 光の複屈折とリタデーション

複屈折とリタデーションは、密接に関連しています。具体的には、複屈折によって生じる2つの偏光成分の速度差が、リタデーションという位相差として現れます。

複屈折とは
複屈折とは、特定の物質(複屈折性物質)に入射した光が、その進行方向によって異なる速度で進む現象です。複屈折は、物質の結晶構造や分子配列の異方性に起因します。複屈折性物質に入射した光は、通常、互いに直交する2つの偏光成分に分離し、それぞれ異なる速度で物質中を伝播します。
複屈折を示す一般的な材料の例としては、方解石、水晶、サファイア、ニオブ酸リチウムなどがあります。また、応力が加わったプラスチックやセロハン、氷など、日常的な材料の中にも複屈折性を示すものが多く存在します。
リタデーションとは
リタデーションとは、複屈折性物質を通過した2つの偏光成分間に生じる位相差のことです。位相差は、2つの偏光成分の光路差に比例し、物質の複屈折率と厚さに依存します。リタデーションは、光の波長で表されることが多く、単位はナノメートル(nm)です。

複屈折(Δn)、材料の厚さ(t)、そしてリタデーション(Γ)の間には、以下の関係が成り立ちます。

リタデーション(Γ) = 複屈折(Δn) × 厚さ(t)

※Γは通常ナノメートルで表され、Δnは無次元、tはナノメートル(または整合性のある単位)で表されます。
リタデーションの大きさは、材料の複屈折の強さと厚さに比例し、光の波長に反比例します。

2. リタデーション測定の技術

リタデーションを測定する技術にはさまざまな方法があり、いずれもサンプルを通過した光の偏光状態の変化を検出する原理に基づいています。測定方法は大きく分けて、目視による方法と自動測定による方法があります。

2-1. リタデーション測定の基本原理

リタデーション測定は、主に以下の原理に基づいています。

偏光の変化
複屈折性物質を通過する光は、その物質の特性によって偏光状態が変化します。リタデーション測定では、この偏光状態の変化を測定することで、物質の複屈折特性を評価します。
位相差の測定
複屈折性物質を通過する光は、互いに直交する2つの偏光成分に分離し、それぞれ異なる速度で物質中を伝播します。これによって生じる2つの偏光成分間の位相差がリタデーションです。測定装置は、この位相差を検出・解析します。

また、一般的なリタデーション測定装置は、以下の要素で構成されています。

光源
測定対象に適した波長の光を照射します。

偏光子
光源からの光を特定の方向に偏光させます。

試料
測定対象となる複屈折性物質です。

検光子(アナライザー)
試料を通過した光の偏光状態を分析します。

検出器
検光子を通過した光の強度を測定し、リタデーション値を算出します。

2-2. リタデーション測定の方法

目視による方法は、偏光顕微鏡を用いた観察が代表的です。サンプルを偏光子と検光子の間に配置し、検光子を回転させながら透過光の強度変化や干渉色を観察します。干渉色のパターンや色の変化から、リタデーションのおおよその値を推定することが可能です。ミシェル・レヴィの干渉色図表を用いることで、定性的な評価を補助できます。

自動測定による方法では、専用のリタデーション測定装置を使用します。測定装置の基本的な構成は、光源、偏光光学系、検出器、データ解析システムです。サンプルには特定の偏光状態の光を照射し、透過または反射した光の偏光状態の変化を高精度に検出できます。

自動測定装置は、高速かつ高精度な測定が可能であり、製造ラインでの品質管理や研究開発など、幅広い用途で利用されています。

3. リタデーション測定装置 RETS-100nxとは?

リタデーション測定装置とは、複屈折性を持つ材料を透過または反射した光の偏光状態の変化を分析し、リタデーションの量や光学軸の方向などを測定するための装置です。

大塚電子が提供するRETS-100nxは、OLED用偏光板、積層位相差フィルム、IPS液晶位相差フィルム付偏光板といった多種多様なフィルムに対応したリタデーション測定装置です。

また、独自の高性能マルチチャンネル分光器を使用することで、多波長での透過率情報を高密度に取得し、非常に高い精度でのリタデーション評価を可能にしています。操作面においても、簡単なソフトウェアや、サンプルの置き直しによるズレに対応した補正機能が搭載されており、手軽に高精度な測定を行えます。

3-1. リタデーション測定装置 RETS-100nxの特長

RETS-100nxの最大の特徴は、独自の高性能マルチチャンネル分光器を搭載している点です。これにより、従来の装置と比較して約50倍もの情報量(約500波長)の透過率データを取得できるため、非常に高精度なリタデーション測定が可能です。高リタデーションを有する超複屈折フィルムでも、高速かつ正確に測定できます。

また、RETS-100nxは、積層されたフィルムを剥がすことなく、非破壊で測定できる点も大きなメリットです。これにより、製品評価の効率化や、デリケートなフィルムへのダメージを避けられます。

さらに、サンプル設置時のわずかなズレを補正する機能も搭載されており、誰でも簡単に、高い再現性で測定を行えます。測定時間とデータ処理時間も大幅に短縮されており、迅速な評価が可能です。

3-2. リタデーション測定装置 RETS-100nxの仕様

RETS-100nxの主な仕様は以下の通りです。

測定項目
フィルム、光学材料(リタデーション(波長分散)、遅相軸、Rth※1、三次元屈折率※1など)、偏光板(吸収軸、偏光度、消光比、各種色度、各種透過率など)、液晶セル(セルギャップ、プレチルト角※1、ツイスト角、配向角など)

リタデーション測定範囲
0~60,000nm

リタデーション繰り返し性
3σ≦0.08nm(水晶波長板 約600nm)

セルギャップ測定範囲
0~600µm(Δn=0.1の場合)

セルギャップ繰り返し性
3σ≦0.005µm(セルギャップ約3µm、Δn=0.1の場合)

軸検出繰り返し性
3σ≦0.08°(水晶波長板 約600nm)

測定波長範囲
400~800nm(他選択可能)

検出器
マルチチャンネル分光器

測定径
Φ2mm(標準仕様)

光源1
00W ハロゲンランプ

データ処理部
パーソナルコンピュータ、モニター

ステージサイズ 標準
100mm×100mm(固定ステージ)

オプション
超高リタデーション測定、多層測定、軸角度補正機能、自動XYステージ、自動傾斜回転ステージ

※1 自動傾斜回転ステージが必要です(オプション)。

(出典:アズサイエンス株式会社「リタデーション測定装置」/https://azscience.jp/machine/detail/item_1280/

まとめ

リタデーションとは、複屈折性材料内を通過する光の高速軸と低速軸に沿った偏光成分の間に生じる位相のずれのことです。複屈折性材料に入射した光は、偏光方向によって異なる屈折率を持つため、材料内での伝播速度が異なります。この速度差によって位相差が生じます。

また、リタデーション測定は、光学分野や材料科学において、複屈折特性の評価や品質管理のために不可欠な技術です。RETS-100nxは、独自の分光器による高精度測定、非破壊での積層状態評価、簡単な操作性など、多くの優れた特長を備えているリタデーション測定装置です。さまざまなフィルムや光学材料の研究開発、品質管理に活躍するでしょう。

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